ナルニアは大人にこそ読んでほしい 翻訳家・土屋京子トークショー
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2018年4月20日(金)、光文社古典新訳文庫『ナルニア国物語』の翻訳者、土屋京子さんによるトークショー、「紀伊國屋書店Kinoppy=光文社古典新訳文庫Readers Club Reading Session #40 新訳全巻完結!『ナルニア国物語』の読みどころ」が、紀伊國屋新宿本店にて開催された。

 

今年3月に第7巻『最後の戦い』の刊行をもって完結をみた『ナルニア国物語』だが、18カ月の間に7冊を次々と翻訳・刊行するというのは翻訳小説業界でも稀に見る「強行軍」だという。この短期間に誰よりも物語を深く読み込んだ翻訳者の土屋京子さんならではの洞察や指摘に、会場に集まった人々は大きくうなずきっぱなしだった。

 

『ナルニア国物語』は一般的には児童書とみなされているが、本来「大人が読んでも満足できる本。子どものものとしてくくってしまうのは本当にもったいない」と熱く語る土屋さん。児童書の翻訳では、子ども向けだからと表現を易しくしがちだが、実は欧米の児童向け作品と言われるものは、そもそもそんなに易しいものばかりではないとのこと。今回の新訳は大人でも十分に楽しめる、歯ごたえのある訳になっているが、それは意識して難しく翻訳したわけではなく、「ルイスの原文のとおり、子ども向けだからといって手加減しないで訳したらこうなった」という。また、原文にはとりたてて子どもにおもねった感じはないと考え「です・ます」調は採用せず、特定の風景描写には「静謐」「跋扈」など難しい漢語表現も欠かせなかったという。

 

くわえて、「『ドーン・トレッダー号』の帆が紫色なのは、実はローマ時代のクレオパトラの船を参考にしていると後で知った」と、土屋さんが著者ルイスの博識に驚嘆したエピソードも、ナルニアがただの子ども向けの本ではないことを裏付けているだろう。

 

どの巻が好きかという質問については、第3巻『馬と少年』を挙げ、土屋さんが学生時代に通読した『千夜一夜物語』との関連も語られたが、第1巻『魔術師のおい』は「いつでも立ち戻るべき本」、第7巻『最後の戦い』は「別格」といったように、結局「どの巻も外せない、それがナルニアの魅力」という。また、どのキャラクターが一番好きかという質問に対しては、なかなか選べないが、第3巻『馬と少年』に出てくる馬のブリーは「ノリノリで訳した」、第4巻『カスピアン王子』に出てくるトランプキンの言葉遊び「とんでもはっぷん歩いてじゅっぷん」「びっくりしゃっくりこれっきり」などもとても楽しんで訳したとのこと。

 

「大人の人は、子どもの本だと思わないで大人のものを読むつもりで読んでほしい。子どもたちには、ちょっと背伸びして文庫を手にとって読んでほしい」という土屋さん。翻訳者の情熱がひたひたと伝わってくる90分だった。

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