酒向正春×津田大介【対談】「健康寿命」を長くするために必要なことーー超高齢化時代の患者論
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◇患者の心構えと病院選びのポイント

 

津田:日本では、リハビリテーションをめぐる医療体制が2000年に大きく転換しています。これについて、あらためて酒向さんからご説明いただけますか?

 

酒向:2000年の診療報酬改定 とともに「回復期リハビリテーション病棟」が創設され、日本の医療は劇的に変わりました。それ以前は、大きな病気をした際に、どんな治療をどういった段階で進めていくのかが不明瞭で、未熟な状態だったんです。

 

それが2000年以降は、最初の段階として救急治療をする「急性期医療」があり、その後にリハビリをする「回復期医療」がきて、さらに、一生にわたって再発を予防する「維持期医療」があるという3つに明確に分かれました。この連続性が非常にすばらしかった。

 

津田:つまり、新しい医療制度が功を奏したと。

 

酒向:はい。私が脳神経外科医だった2003年までーー特にこの制度ができる2000年までは、大きな褥瘡(じょくそう)をもつ寝たきりの患者さんが病院にたくさんいらっしゃった。いまはそういう患者さんがいなくなっています。

 

津田:なるほど。そういう背景があったと踏まえたうえで、患者の心構えについて伺います。病気になったとき、とにかく評判の良い医師にかかって「治してください!」と頼む、ある意味では「丸投げ」的なマインドの患者も少なくないと思います。

 

しかし、患者は医師に任せているだけではダメで、自分でもやるべきことがたくさんある。酒向さんが繰り返し本のなかで書かれていることですが、あらためて、患者としてはどのような姿勢でいればいいのでしょうか。

 

酒向:もちろん、腕の良い医師に治療してもらうのは重要なことです。特に、急性期の救急医療や先端医療においては、治療能力のある先生に診ていただくのがベストです。ただし、そのあとに障害が残った場合ーー障害と付き合っていかなくてはならなくなった場合、医師頼みではいけません。

 

津田:障害が残った場合、医師が関与できる割合が小さくなってしまうので、患者の心がけや家族のサポートが重要になってくると。

 

酒向:おっしゃるとおりです。依存心だけでは良くなりません。

 

津田:では、その心がけとはなんなのでしょうか。

 

酒向:まずは、患者さんが「病気を治したい」という気持ちをしっかりもつことです。たとえ治らない病気であっても「これくらいまでは良くなる」というレベルがある。その目標を定めて前に進むわけですが、それを実践するためには、信頼できる医師と病院が必要です。自分や家族の命と人生を任せられる病院をしっかり選ぶ、ということが重要です。

 

津田:最初は病院選びが重要だと。ただ、自分の経験を振り返ってみても、病院選びってとてもむずかしいですよね。いまはインターネットなどで病院の評判を調べられるようになりましたが、ネットの情報はあてにならないことの方が多いので、それも最終的に決め手にはならないというか……。良い病院を見極めるためのポイントはありますか?

 

酒向:患者さんやご家族がいま知りたいことを尋ねたときに、納得のいく説明がコンパクトに得られるかどうか。具体的には、いまどういう状態で、今後、それをどこまで回復できるのか。その2点をきちんと説明してくれるドクターのいる病院を選ぶべきだと思います。

 

なぜなら、この2点を適確に説明できる医師は、病態を理解した治療計画を作成でき、かつ、治療を遂行できるスタッフをチームとしてもっているということが言えるからです。

 

津田:なるほど。

 

酒向:ただし、そこで気をつけたいのは、リハビリを受ける患者さん自身は、身体が弱っているだけでなく、考える力も弱っているということ。高次脳機能障害があったり、精神的な問題が起こることもありますから、いかにご家族がサポートするかが大切です。

 

先ほども触れたように、ご家族がひとつのチームになって、少しでも良い医療を受けられるように心がける。その姿勢が重要ですね。

 

津田:かつて、医療の現場では医師の権力がものすごく強かったわけですよね。そうすると、担当医から治療方針を提案されたとき、患者側が不安に感じていても、「疑問を呈すると医師の気分を害するのではないか」と考えて遠慮してしまう。

 

しかし、酒向さんの本にもありましたが、質問することはまったく悪いことではない。むしろ、納得いかないことがあればどんどん質問して、相手がきちんと答えてくれるか、コミュニケーションをとってくれるかを見る。それが病院探しでは重要なのでしょうね。

 

酒向:はい、そうだと思います。加えて言うと、患者側の質問に対して、医師からきちんとした回答があっても、納得できない患者さんもご家族もいらっしゃいます。そうなった場合に患者さんとご家族は自分たちの責任で今後はどうしていくかを考える覚悟が必要です。

 

津田:医師として、酒向さんもそのような状況に置かれたことが何度もあるのだと思いますが、その場合はどのようにコミュニケーションしていますか?

 

酒向:私はセカンドオピニオンを勧めます。日本全国にセカンドオピニオンを提供してくれる病院はたくさんあるので、そこで意見を聞いてください、と。そのうえで納得していただけるのであれば、われわれと一緒にやりましょう。もし納得できない場合、希望する病院に移られるほうが良いということをはっきりお伝えします。

 

津田:お互いにわだかまりが残ったまま治療を始めるよりは、別の病院に移ってもらったほうが患者さんのためになるということですね。

 

酒向:そうです。

 

津田:そのほかに、病院を選ぶ際に見ておくべきポイントはありますか?

 

酒向:基本的なことなのですが、院内の整理整頓ができているかは大事ですね。廊下にいらないものやゴミがないか、共有スペースに汚れや臭いがないか。要するに、病院が患者さんにとって快適な環境になっているかどうかです。

 

津田:たしかに、流し台やトイレがきれいになっているかどうかは、患者としてもけっこう気になる点です。

 

酒向:次に、病院のスタッフがきちんと笑顔で挨拶できているかどうか。これもかなり重要なポイントだと思います。

 

津田:施設の清潔さやスタッフの対応はどうして重要なのでしょうか。

 

酒向:患者さんを治療するにあたり、救急病院とリハビリは少し違うという話を先ほどしましたが、それは空間にも言えることです。救急病院の場合、ある意味では病気の治療室だけがすべてなんですね。

 

一方、リハビリの場合は患者さんの病室や廊下を含め、病院全体が治療の場であり、生活の場になります。当然、患者さんも気持ちの良い環境のほうがリハビリに打ち込みやすいわけです。そこまで戦略的に考えて、人間力を回復できる快適な空間をつくれているか。それは、実際に病院を見てみればわかることだと思います。

 

津田:施設が新しいか古いかではなく、清潔に保たれているかどうか。スタッフが笑顔で挨拶してくれるかどうか。たしかに、そういったことは一目瞭然ですね。

 

酒向:はい。ハードというよりはソフトの話なのです。ホスピタリティがあふれているかが重要です。

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