中国の製造業強化戦略――「中国製造2025」とは?
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「製造大国」から「製造強国」へ

 

中国は2001年の世界貿易機関(WTO)加盟後、安い人件費を武器に世界の工場として君臨し、膨大な生産量を誇る製造大国となりました。2010年には、中国製造業の世界シェアは20パーセント近くに達したといわれています。

 

しかし現在、人件費は上昇し、単純なコスト競争力ではベトナムなどが中国よりも優位に立つ状況です。低賃金をベースにしたコスト競争力だけでは、もはや成長できないことは自明で、イノベーション能力を一層強化する必要に迫られています。

 

そのような状況の中で、中国政府は「製造大国」から「製造強国」への転換を目指して、2015年に「中国製造2025」という製造業強化戦略を打ち出しました。

 

そこでは重点10分野を定め、2049年までの発展段階を3段階に分けたうえで、産業別の数値目標と達成時期を明示しています。

 

重点10分野の中には、半導体などの次世代IT産業、自動車産業、先進的な高速鉄道や航空・宇宙産業に加えて、このコラムで述べてきたCNC工作機械産業も入っていることに注目していただければと思います。

 

このコラムで前に触れたように、工作機械産業の産業規模はそれほど大きいものではありません。にもかかわらず、自動車や航空機等と並んで重点分野に工作機械産業が指定されているのは、製造業を下支えする重要性を持った産業という認識を、中国政府が持っていることを示唆しているのです。

 

中国は、どのような工作機械を輸入して、
どのような工作機械を輸出しているのか

 

2002年以降、中国国内の工作機械の消費金額は世界トップ。2009年度に工作機械の生産高で中国が日本を逆転して首位に立ったのも、中国国内の旺盛な設備投資意欲が依然として継続していることによると考えられます。

 

では、中国国内の旺盛な設備投資を背景にして、中国はいったい、どのような工作機械を輸入したり、逆に輸出したりしているのでしょうか。

 

中国は、国内で生産した工作機械のうち、ローエンドで安価な非NC工作機械をブラジル、インド、ロシアなどの新興諸国に輸出する一方で、国内で製造できない高性能で高機能のCNC工作機械を日本などの先進国から輸入しています。つまり、ミドルベレルの工作機械が旺盛な国内消費に向かっているという構図です。

 

注目すべきは「共進化のメカニズム」

 

現在の工作機械産業は、CNC装置と工作機械本体の開発を異なる企業で分業するという産業構造になっています。CNC装置の多くはファナック、三菱電機やシーメンスなどのエレクトロニクスメーカーによって開発され、それが工作機械メーカーに供給されて、そこで工作機械本体に付加されて最終ユーザーに提供されるという流れが形成されています。

 

これは中国でも同様です。中国の地場工作機械メーカーはファナックや三菱電機等からCNC装置を購入して、それを工作機械本体に付加しています。現在中国企業は、日本と同程度のCNC装置を自社開発する技術力は持っていません。

 

しかし、CNC装置は核心技術の一つです。

 

ですから、「中国製造2025」が示すように、中国政府はCNC装置を開発できる自国企業の育成を目指しています。

 

はたして、それはいつになるのか――。

 

これは、家電の二の舞を恐れる日本にとって重要な問題となるでしょう。

 

しかし、技術集積装置に進化した日本と同等水準のCNC装置を中国企業が作れるようになり、直接の競争相手になるまでには、かなりの時間がかかると考えられます。

 

日本の工作機械産業成長の背景には、CNC装置と工作機械本体との間で働いた共進化のメカニズムがあると推測されます。それは、CNC装置と工作機械本体との補完関係をベースにして相互に価値を強化しあうメカニズムです。

 

この共進化のメカニズムの作用によって、日本のCNC装置には世界中の工作機械メーカーの技術やノウハウ、ニーズが流れ込み、CNC装置は技術集積装置に進化したのです。そのような日本のCNC装置の技術水準に中国企業が到達するまでには、まだ多くの時間がかかるはずでしょう。

 

この先はしばらくの間、中国地場産業の工作機械生産量が増加すればするほど、付加される日本のCNC装置の需要もまた増加するという分業構造は維持されるでしょう。

 

これは、相手の力をうまく利用して、自分の有利につなげる高度な戦略であるとも考えられます。相手と同じものを作って真っ向勝負を挑むのではなく、補完的なものを作ることで、相手の成長にうまく乗って自分も成長するという共存共栄の関係でもあり、また運命共同体といってもよいかもしれません。

 

※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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