akane
2018/11/30
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2018/11/30
中国の経済システムを牽引している一つの柱、「デジタル覇権」。それを担う代表的な中国の民間巨大企業が、3大ネット企業のバイドゥ、アリババ、テンセントだ。
これらの3社は頭文字をとって「BAT」と呼ばれている。これらの躍進ぶりはすさまじい。いずれも利益率は20%を超え、海外留学からの帰国組など優秀な人材を惹きつけて急成長している。中国国内、海外ともに急速に事業拡大しており、連日そうした報道には目を見張るものがある。最近は日本の政財界もこうした企業への訪問に殺到しているのが実情だ。
これまでのデジタルの世界では、米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルが代表格であった。これらの企業はITを使った各種サービスの共通基盤になるインフラを提供する巨大事業者で「ITプラットフォーマー」と呼んでいる。そしてその4社の頭文字をとって「GAFA」と呼ばれている。
国際的には、これらのITプラットフォーマーが巨大な顧客データを収集、蓄積することによって絶大な力を持つことへの懸念はかねてから指摘されているところである。 実は中国のBATは、米国のGAFAのビジネスモデルを真似た「コピー・モデル」だ。中国政府はこれまで米国のGAFAに対して、さまざまな規制を設けて、中国市場での自由なビジネス展開を許してこなかった。これは「デジタル保護主義」だと指摘されている。
例えば、クラウドサービス事業については外資規制をしている。そうした中国政府によって作られた「国境の壁」に守られて、BATはGAFAとの競争を回避できて、14億人の巨大市場の中で急成長していった。
問題は、中国のBATは中国政府との密接なつながりの下に成長していることだ。共産党政権の意向に沿ってビジネス展開している限りは、政権によって保護を受けて高収益力で成長する。いわば「国家と一体となった」成長モデルと見られている。
こうしたBATは巨額の資金力で、あらゆる分野のベンチャー企業に投資して、自らの支配下に囲い込もうとしている。中国のベンチャー企業の多くはデジタル分野だが、その資金供給源になっているのだ。2017年にアリババ、テンセントが出資した企業数はそれぞれ10社、80社を超える。
企業価値が10億ドルを超える未上場企業を「ユニコーン」と呼ぶが、世界に250社あるうち、中国には米国の120社に次いで多い70社がある(2018年8月末時点)。中国はこうしたユニコーンを国を挙げて支援している。日本はたった1社であるので、中国の躍進ぶりは目を見張るものがある。BATは潤沢な資金を背景にこうしたユニコーンの3分の1の会社に出資している。
そして、こうして囲い込んだ多数のさまざまなベンチャー企業のビジネスを通じてもデータが集まるようになっている。こうしたベンチャー企業はさまざまな生活や事業分野で多様なウェブサービスを展開している。その結果、BATはGAFA以上に多様な種類の豊富なデータを蓄積することができるのだ。 しかし、そこにはデジタル分野特有の深刻な問題をはらんでいる。
中国政府はBATが収集した膨大なビッグデータにアクセス可能だ。後述する「サイバー・セキュリティ法」には公安機関への協力義務も規定されている。こうしたデータをAIで分析すれば、「国家による社会統制システム」になり得るのだ。
例えば、中国ではスマホを使ったモバイル決済が急成長して、米国の10倍以上にまで普及している。中国に行くと驚くのが、このキャッシュレス社会だ。その一翼を担うのが、アリババが提供する電子決済システム、アリペイだ。飛躍的に普及しており、日本にも進出している。
このアリペイは個人情報を提供させて個人の信用力を点数化して、顧客ごとにどの程度の優遇をするかを決めるようになっている。こうして自然に個人情報のデータが集まる仕組みだ。このようにして収集された個人に関するデータに国家はアクセスできる。ちなみに、アリペイやテンセントなど民間の銀行決済システムは、2018年の6月からは全て人民銀行の統一決済プラットフォームにつなぐことになり、その結果、官民一体の巨大ビッグデータが中国政府下にある。
国家による統治の一翼を担っているのが、BATであり、AI企業なのだ。
以上、光文社新書『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(細川昌彦著)より一部抜粋、再構成してお届けしました。
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