akane
2018/11/29
akane
2018/11/29
「料理力より、自炊力を」
前々から、こう思っていました。
私の思う「自炊力」とは、
・自分で買い物に行って、その場で献立を決められる
・食材の質と値段のバランスを考えつつ買い物ができる
・そのときに買ったもの、家にすでにあるもの取りまぜつつ、数日分の献立を作り回していける
・なおかつ栄養バランスを考えられる
といった能力の総合力です。生きていく上で、とても大事なスキルです。
こういうことを考えるようになったのはまず社会に出て、生活習慣病にかかる先輩方を少なからず見てきたということがあります。高血圧や糖尿病になり、食事が制限されてしまう。働き盛りで食べる楽しみ、飲む楽しみが制限されてしまうつらさは、想像に難くありません。将来そういう状況になって、病気のことを考えた料理を作ってくれる人もなく、自炊も苦手だとしたらどうなるか?
さらには現代はパートナーに頼りきるような時代でもないですよね。生活習慣病にかぎらず、加齢と病気はセットのようなもの。どんなに心がけていても何かしらにガタはくる。そのとき「何をどう食べたらいいか、何を補給し、減らすべきなのか」を考え、情報を適切に取捨選択しつつ、食事を自分でまかなえるスキルは男女問わず必要ではないでしょうか。
またふたつめには経済的な理由もあります。その時々で安い食材を調理・保存でき、うまく使い回せる食生活を送れたら、こんなにいいことはありません。そして特別おいしくとまではいかずとも、自分なりに満足のいく味つけができるスキルを保持できれば、人生を通じて自分のQOL(Quality of Life:生活の質)をかなり上げられるはずです。
私は30歳でフリーランスのライターになったこともあり、健康と経済性のことを強く意識して食生活を送るようになりました。
簡単にいえばその日の特売品をうまく使い回して、なるべく無駄を出さずに、なるたけおいしく食費を切り詰めたい、ということです。ともかくも料理は場数、できる限り料理をするようになりました。そして、焦りもありました。年をとるとだんだんと学ぶことも億劫(おつ くう)になっていくに違いない、早く自炊力を身につけておかなくては、という焦燥感です。
テレビでたまに、料理教室に通う中高年の姿が報じられることがあります。この手の番組はよく「何かを始めるのに遅いなんてことはひとつもない!」といった、きれいな言葉でまとめられています。これが私は、ずっと疑問でした。
何かを学ぶというのは「やる気・経済力・時間」の3つがそろってはじめて成立するもの。中高年以降にこの3つがそろう人は相当少ないと思うのです。
現在の20代、30代は貯蓄意識がとても高いと聞きます。「将来、病気になったときの出費が心配」と懸念する人が多いのだとか。保険に対する関心も高いようです。そういう人たちにこそ、「自炊力の取得」を訴えたい。経済的に料理をしつつ、栄養のことも考えられ、余った食材を次の料理に使い回せるスキルの取得を。
しかし仕事やほかの家事、育児などで余裕がなく、料理にかける時間と手間はなるべく少なくしたい、という人が多いのも現代の潮流。
「自炊が大事なんて分かっている。けれどそれをやる気力がないのだ」
という声も、これまでたくさん聞いてきました。
世の中には、これから料理を覚えようという人のための本はいくらでもありますね。簡単料理、時短料理(調理時間が数分しかかからない料理)のレシピ本も山ほどあります。ですがこれらは「料理を始めよう」という決意と準備が整った人のためのもの。
「料理をするのは今のところ難しいけれど、そりゃ食生活は少しでもより良いものに変えたい、変えていきたい」と願う人にこそ、「こんなことでもOKなのか」というヒント集が必要だと私は思っていました。さらにいえば「料理ひとつもできず、恥ずかしい、情けない」と自分を責めている人も少なからずいます。その自責の念によってさらに自炊から遠ざかってしまうという悪循環。この本は、そんな人たちへの応援歌のつもりで書きました。
「とかく食事は外食やコンビニ頼り。けれどできれば自炊をしたい、始めてみたい」
と思われる方に、「こんなことからでもいいのだな」と思ってもらえるきっかけに本著がなれば幸いです。
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