akane
2018/11/13
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2018/11/13
宇宙にある物質やエネルギーの成分で、最も多いのがダークエネルギー、次に多いのがダークマター、その次に多いのが原子でできている通常物質である。質量はエネルギーと等価である。したがって、これらの存在比はエネルギー換算で表すことができ、それぞれ69%、26%、5%となる。
上の図は、宇宙に存在する物質やエネルギーの存在比を百分率で与えたものだ。通常物質の内訳の中にはニュートリノという成分がある。この図では仮に0・1%含まれていることにしてある。しかし、ニュートリノの総量には他の数値に比べて大きな不定性があり、その正確な値はよくわかっていない。
私たちに知られている通常物質として、原子でできているもの以外にニュートリノという粒子がある。ニュートリノとは、電気的に中性な粒子で、全部で3種類あることが知られている。質量が軽く、電気の力も感じないし、原子との間には「弱い力」と呼ばれる、文字通り弱い力しか作用しない。このため、ほとんど何でもすり抜けてしまう。ニュートリノを捕まえることは容易ではなく、その性質にはいくつか不明な点もある。
太陽の内部では核融合反応が起きていて、その過程でニュートリノが大量に放出される。そのニュートリノは地球に大量に降り注いでいるため、水などの物質と光検出器を大量に用意しておくと、たまに太陽から来たニュートリノが原子と反応して光を出し、その存在を知ることができる。
また、超新星爆発のときにも大量のニュートリノが発生する。1987年2月23日には、天の川銀河の隣にある大マゼラン雲でSN1987Aと呼ばれる超新星爆発が観測された。このときに地球へ飛んできたニュートリノが、日本の神岡鉱山に設置されたカミオカンデという装置によって検出された。
宇宙初期にも原子核反応が頻繁に起きていたため、それに伴ってニュートリノが放出されたり吸収されたりしていた。だが、宇宙が膨張して物質の密度が薄くなり温度が下がると、ニュートリノは他の粒子とほとんど衝突しなくなり、他の物質をすり抜けながらまっすぐ進むようになる。
こうして、宇宙初期に大量に存在したニュートリノは、現在の宇宙にそのまま残っている。理論的にその数は計算できて、角砂糖の大きさほどである1立方センチメートルあたり340個ほどのニュートリノが、現在の宇宙に存在しているはずとなる。これを「宇宙背景ニュートリノ」と呼ぶ。
現在の宇宙に存在するニュートリノの数密度にニュートリノの質量を掛ければ、ニュートリノが宇宙のエネルギー成分に占める質量密度がわかる。ところが、ニュートリノの質量はいまだに正確な値がわかっていない。このため、宇宙にあるニュートリノの質量密度にはいまだ不定性がある。
ニュートリノには3つの種類があり、それぞれ異なった質量を持っていることが実験的に明らかにされている。その相対的な質量の差は実験的に測定できるのだが、絶対的な質量の値はわかっていない。ニュートリノは私たちの世界をかたち作る素粒子のひとつ。したがって、その最も基本的な性質である質量の値を決めるというのは、物理学における重要な問題となる。
ニュートリノの質量がある程度大きければ、宇宙が膨張して温度が下がるにつれ、ニュートリノの速さも遅くなる。そして、ダークマターと同じように、他の粒子と相互作用をほとんどしない物質として振る舞うことになる。つまり、物質の一部はニュートリノでできているため、その量によっては、ニュートリノが宇宙の大規模構造の形成を左右するようになる。
特に、ニュートリノの質量によっては、宇宙の大規模構造の形成を阻害することになる。なぜなら、最初に密度の濃い場所にあったニュートリノは、物質をすり抜けながら四方八方へ飛び散っていくので、密度のゆらぎを小さくする効果があるからだ。
現状では、まだニュートリノ質量の和を検出できるほど精度のよい観測は行われていない。
しかし現在、世界ではDESI(Dark Energy Spectroscopy Instrument)、LSST(Large Synoptic Survey Telescope)、Euclid計画といった、大規模な銀河サーベイや弱い重力レンズサーベイの稼動が予定されている。これらが稼動すれば、ニュートリノ質量の和に有限値が観測される日も近いうちに来るだろう。
ちなみに、米国のキット・ピーク天文台にある口径4メートルのメイヨール望遠鏡を用いるDESI計画では、全天の3分の1という広い天域で、奥行き150億光年までの範囲にある銀河と、180億光年から230億光年の間にあるクェーサー、合わせて3000万個の赤方偏移サーベイを行う予定だ。
チリ共和国に8・4メートルのサーベイ専用望遠鏡を建設するLSST計画では、遠方にある暗い星や銀河を370億個も観測する。天体のスペクトルを測る分光器は使わない測光サーベイだが、測光赤方偏移という方法で銀河までの距離を近似的に推定する。こちらは、2022年から観測が始まる予定だ。
2021年に打ち上げ予定のEuclid計画では、人工衛星に搭載される1・2メートルのサーベイ専用望遠鏡を使い、6年間かけて全天の3分の1以上の天域で3500万個の銀河赤方偏移サーベイを行う予定だ。測光サーベイも行い、約15億個もの天体を観測する。
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以上、『図解 宇宙のかたち』(松原隆彦・高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所教授:著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成した。
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