720通りもの読み方が存在する空前絶後の仕掛け!|道尾秀介さん新刊『N』
ピックアップ

BW_machida

2021/11/13

撮影/中林 香

 

道尾秀介さんは作品を発表するたびに読者を未知の世界へと連れ出してくれます。新刊は長年の道尾ファンも度肝を抜かれる、世界に類を見ない奇跡の連作ミステリー小説です。

 

「小説という世界での″能動的な体験”を楽しんでください」

 

『N』集英社
道尾秀介/著

 

直木賞作家の道尾秀介さんの新刊『N』は古今未曽有の連作ミステリー小説です。

 

「誰も読んだことのない小説、書いたことがない小説をつくってみたいと思ったのが始まりです。本自体も見たことがないようなものにしたいと思いました」

 

道尾さんは着想のきっかけについてそう語ります。

 

「リアル脱出ゲームのような体験型のゲームが好きなんですけど、それを受動的だと思われている小説という世界でやれないだろうかと考えたんです。’19年に出した『いけない』という小説では、読者が小説を体験できる仕掛けを作り、作品を体感してもらえるようにしました。それが好評だったこともあり、今回は小説であっても能動的な体験ができる仕掛けを考え、これができたんです」

 

本作品には全部で6つの章が収録されています。単行本の扉を開くと目次があり、各章のタイトルとその記載ページが書かれてあります。“第1章”などといった章立ては決まっていません。さらにページをめくると、各章の冒頭部分が載っています。読み手は、その6つの冒頭を読んで気に入った章を目次で確認し、そこから読み始めることになります。その章を読み終えたら、またこの冒頭に戻って次に読む章を選ぶ、という仕組みです。最初に読む章も、どういった順番で読むかも、ラストはどの章になるかも一切決まっていないのです。つまり、この小説は読み手自身が読み進め方を自由に決められる、画期的な作品なのです(ですので、ここであらすじを紹介することはしません)!

 

「読む順番によって新しい物語ができる構造を考えました。登場人物の過去を知ってから未来を読む場合もあれば、未来を知ってから過去を読む場合もあります。その人物に将来、何が起きるのか知った上で読むのと、知らないまま読むのとでは章の意味が変わってくる。ある順番で読んだときにだけ発動する仕掛けもありますし、どの順番で読むか、どの章がラストシーンになるかで大きく印象も変化するようになっています。この仕組みを思いついた時点でものすごく面白くなると思ったので、大変そうでしたがやらざるをえなくなりました(笑)」

 

道尾さんは物語の構成だけでなく、本の構造にもこだわりました。

 

「章と章の物理的なつながりも断ちたいと考え、一章おきに上下を反転させた形で印刷してもらいました。通常どおりに印刷したら、どうしても冒頭からページをめくっていきやすいと思うんですね。それで、そこを断ち切る構造にしたくて。できあがってみたら、本をクルクル回すのがこんなに楽しいのかと実感しました(笑)」

 

ちりばめられた伏線が有機的に絡み合う謎解きも抜群の面白さ!

 

「今回、自分が存在している世界のバックグラウンドにとてつもなく大きなものがあることも描きたいと思っていました。人生は生きる価値のあるものだと思ってもらえたら嬉うれしいです。ぜひ能動的に読んでみてください」

 

各章は短編小説としても堪能でき、記憶が薄れたころに順番を変えて読むと、全く別の世界が見えてきて仰天するはず。一冊で720通りに楽しめる傑作の誕生です。

 

PROFILE
みちお・しゅうすけ●’75年、東京都出身。’04年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。’07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、’09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞、’10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、’11年『月と蟹』で第144回直木賞を受賞。

 

聞き手/品川裕香
しながわゆか●フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より本欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を