akane
2018/11/08
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2018/11/08
宇宙の中には通常物質とダークマターがある。どちらも物質だが、物質には重力によってお互いに引き合うという性質がある。一般相対性理論によると、重力というものは時空間の曲がりによって引き起こされる。物質はお互いに引き合うだけでなく、空間自体も引っ張る。
宇宙は膨張しているが、宇宙が通常物質やダークマターで満たされていると、宇宙全体を小さくしようとする。
このことから、宇宙の膨張はだんだん遅くなっていくというのが、常識的な考えだった。
だが、宇宙にあるのは通常物質とダークマターからなる物質成分だけだろうか。実は、それ以外のエネルギー成分が含まれている可能性が昔から考えられていた。それは、物質のないような真空の空間に、薄く広がったエネルギーだ。
当初、このような形態のエネルギー成分は、一般性相対理論を創始したアインシュタイン自身によって導入された。それが「宇宙項」というものだ。
アインシュタインは、宇宙というものは、膨脹も収縮もしない「静的なもの」だと考えていた。だが、アインシュタイン方程式からは、そのような宇宙は導き出すことはできなかった。
そこでアインシュタインは、物質の収縮力と宇宙項の膨脹力をぴったり合わせることによって、膨脹も収縮もしない静的な宇宙を実現できるとしたのだ。
1917年に考えられたこの宇宙のモデルは、アインシュタインの「静的宇宙モデル」と呼ばれる。
ところが、宇宙は必ずしも静的である必要はないと考える研究者が現れた。ロシアの物理学者アレクサンドル・フリードマンは、1922年、もともとのアインシュタイン方程式を解くことによって、宇宙が膨張または収縮する宇宙モデルを導き出した。
さらに、ベルギーの物理学者ジョルジュ・ルメートルは1927年、宇宙項を含めたアインシュタイン方程式を解いて、フリードマンの結果を再現するとともにそれを拡張した。
しかし、当時は宇宙項があるかどうかを観測的に決定することはできなかった。そして、宇宙項があるかどうかというこの問題は、20世紀の終わり頃までよくわからないまま推移してきた。
宇宙項は、あるのか、ないのか。この問題は、20世紀終わり頃まで決着がついていなかった。しかし1990年代、宇宙の大規模構造の研究者たちは、宇宙項があった方が観測を説明しやすいことに気づき始めていた。
実際、宇宙の大規模構造の解析などから、宇宙項があるのではないかという間接的な示唆は得られていた。しかし、決定的な証拠に乏しかった。
もし、宇宙項があるのであれば、それによって宇宙が加速的に膨脹していることをもっと直接的に示すことができればよい。
それを可能にしたのが、Ia型超新星という特別な天体の観測だった。
超新星というのは、星が突然明るく輝き、徐々にまた暗くなる現象を指す。新しく星ができたわけではなく、もともとあった星が進化の終末期に起こす大爆発である。
Ia型超新星はとても明るく輝き、その最大の明るさは大きめの銀河全体の明るさに匹敵する。このため、かなり遠方にあっても観測できる。つまり、昔の宇宙を見るのに都合がよい。
そして、Ia型超新星の見かけの暗さから距離を推定できる。距離がわかれば、その超新星からどれだけの時間をかけて光が私たちに届いたのがわかる。また、赤方偏移を測定すると、その超新星爆発が起きた時刻での宇宙の大きさがわかる。こうして遠方のIa型超新星をいくつも観測すると、宇宙の大きさと時間の関係が求まり、宇宙膨張が加速しているかどうかがわかる。
現在の宇宙が加速膨脹していると、そうでない場合に比べて同じ赤方偏移でも遠方のIa型超新星が暗く見える。この観測を実際に行った結果、1998年までには2つのチームが独立に同じ結果を得た。それは、宇宙はやはり加速膨脹していたということだ。
現在の宇宙が加速膨脹していることが明らかになると、その原因として真っ先に考えられるのが、アインシュタインの導入した宇宙項である。だが、宇宙項はそれまで理論的には好ましくない存在だった。それはなぜか。
宇宙項は、アインシュタイン方程式に付け加えられた項だった。この項は、空間全体が一定のエネルギーを持つときに生じる。その一定のエネルギーは宇宙が膨張しても薄まることなく、時間的にも空間的にも一定のままなのだ。
私たちは真空にエネルギーがあることを感じることなどできない。だが、現代物理学において真空とは、何もない空間というような単純なものではない。量子場の理論によると、真空には量子的なゆらぎとして粒子が絶えずできたり消えたりしていると考えられる。
この量子場の理論から単純に計算すると、真空には莫大なエネルギーがあってよいということになる。だが、実際の真空にはそのような莫大なエネルギーはない。もし、量子場の理論が示すような莫大なエネルギーを真空が持っていれば、一般性相対理論の効果によって空間が極端に曲がってしまい、現実の宇宙には合わないのだ。
そこで、おそらく量子場の理論が示唆する莫大な真空のエネルギーは何らかの理由で打ち消しあっているに違いない、と考えられた。そして、もしそのような打ち消し合いが働くなら、完全に打ち消しあってゼロになっているのが自然だ。
そうでなければ、莫大な正の真空エネルギーと、莫大な負の真空エネルギーを123桁ほどの精度で微調整して残さなければならないからだ。
そんな不自然な微調整を自然が起こすとは思えない、だから、自然には真空エネルギーを完全にゼロにするメカニズムがあるに違いない、というのが真空エネルギー問題に対する量子場の理論だった。つまり、真空に一定のエネルギーはなく、したがって宇宙項もないだろうと考えられたのだ。
だが、宇宙項があるとなれば、量子場の持つ真空エネルギーは不自然なほどの微調整を余儀なくされる。そのような微調整を可能にするメカニズムは見つかっていない。もしかすると、宇宙項の起源は、量子場の真空エネルギーではなく、別のところにあるのではないか――そう考える研究者が21世紀になると増えてきたのである。
つまり、何かはわからないものの、宇宙全体に「未知のエネルギー」が広がっているというわけだ。
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以上、『図解 宇宙のかたち』(松原隆彦・高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所教授:著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成した。
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