今の貨幣制度は正しいのか? 銀行中心の貨幣レジームから国民中心の貨幣レジームへ
ピックアップ

 

私たちは、今ある「制度」というものをまるで自然環境のように所与のものとして考えがちだが、
制度というものは本来、人為的な創造物に過ぎない。したがって、その制度に欠陥があればその変革を躊躇すべきではない。

 

ここでは、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(井上智洋著・光文社新書)を参考に、
現在、地球上で採用されている「銀行中心の貨幣制度」の欠陥について考えたい。

 

井上氏は、これまでの貨幣制度を「政府中心の貨幣制度」(Administration-centered Monetary Regime, A レジーム)と「銀行中心の貨幣制度」(Bank-centered Monetary Regime, B レジーム)に分類している。

 

Aレジームでは、政府(皇帝、君主などの主権者)が金属貨幣や紙幣を発行し、貨幣発行益を受け取るのは政府自身となる。「貨幣発行益」とは、政府や中央銀行などが貨幣を発行することで得られる利益のことを指す。例えば、1万円札の製造コストは1枚あたり約20円なので、残りの9980円が貨幣発行益となる。

 

一方のBレジームでは、中央銀行や民間銀行が紙幣や預金通貨を創造する。貨幣発行益を優先的に享受するのは、それらの銀行となる。

 

Aレジームは「金属貨幣レジーム」と「政府紙幣レジーム」に分けられ、Bレジームは、金本位制、銀本位制などの「貴金属本位制」と「管理通貨制度」に分けられる。

 

近代以前では、洋の東西を問わず、主要な地域では「政府中心の貨幣制度」(Aレジーム)が採用されてきた。ヨーロッパでは、中国とは異なって政府紙幣が導入されたことがほとんどなく、主に金属貨幣レジームが敷かれていた。この制度では、貨幣の材料である金や銀などの埋蔵量に限りがあるため、貨幣量を自由に増大させることはできない。もし、経済規模が大きくなっても貨幣量が増大しなければ、貨幣不足が生じて経済は停滞する。事実、近代以前の経済は度々このような事態を招き、長期にわたる貨幣不足によるデフレ不況を経験している。

 

そして、17世紀ヨーロッパの貨幣不足は、貨幣制度がAレジームからBレジームに転換されることによって克服された。この転換が、ヨーロッパが勃興し産業革命を起こして世界を支配するに至った一つの要因となった。

 

近代の貨幣制度である「銀行中心の貨幣制度」(Bレジーム)は、18世紀のイングランドで現代と同様の仕組みを形作った。
その後、このBレジームは欧米各国及び日本で採用されるに至ったが、それは資本主義の安定的な発展のために適していたからだ。

 

だが、このBレジームは銀行中心の制度であるために、お金の貸し借りなしには貨幣が増大することのない奇妙な制度であるのが特徴だ。そして、このレジームには「不況からの脱却の困難性」「貨幣発行益分配の不透明性」「バブルに対する促進性」という三つの欠陥があるという。

 

この三つの欠陥についての詳しい記述は本書に譲るが、井上氏はこのBレジームを廃止し、今こそ「国民中心の貨幣制度」(Citizen- centered Monetary Regime, C レジーム)に転換すべきだと訴えている。

 

そして、このレジームが実現すると、貨幣の流れはこれまでと「逆転」するという。

 

最後に、本文の言葉を紹介して本項を終えたい。

 

「私たちは本来受け取れるはずのお金を受け取る代わりに、銀行からお金を借りてあまつさえ利子まで支払っている。そろそろ私たちは、自分たちのあまりのお人好しぶりに自ら呆れる時を迎えているのではないだろうか」

 

「貨幣発行益を享受する権利は全ての国民が持っており、その公正な分配は国家の神聖な義務であろう。国民のものは国民のもとへ、神のものは神のもとへ納められるべきである」

関連記事

この記事の書籍

AI時代の新・ベーシックインカム論

AI時代の新・ベーシックインカム論

井上智洋(いのうえともひろ)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

AI時代の新・ベーシックインカム論

AI時代の新・ベーシックインカム論

井上智洋(いのうえともひろ)