瀧羽麻子 七面鳥 『女神のサラダ』
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ryomiyagi

2020/04/03

生まれてはじめて七面鳥を見た。

 

いや、正しくは、はじめてではない。こんがりと焼きあげられ、おなかを上にして大きな皿に盛られているところは、何度も見たことがある。子どもの頃、まるごと一羽のローストターキーは、クリスマスのごちそうの主役だった。

 

生きている七面鳥を、わたしははじめて見たのだった。

 

生きている七面鳥は、大変迫力があった。想像以上にどっしりと立派な体つきで、特にオスは、青みがかった黒い羽がつややかで美しい。鋭い眼光にも、とがった嘴にも、独特の風格がある。貫禄たっぷりのたたずまいながら、ひょこひょことお尻を振って歩く様にはどこか愛嬌もあって、眺めていると、なんだかたのしい気持ちになってくる。

 

しかも、彼らは働き者だ。

 

「うちの従業員です」

 

と、農家の方は紹介して下さった。農業にまつわる連作短編を執筆することになり、取材におじゃましたのだ。ビニールハウスの中に放し飼いされた七面鳥たちは、毎日伸びる雑草をせっせと食べてくれるという。除草剤を使わない無農薬栽培の、頼もしい助っ人なのである。

 

威厳を備えつつユーモラスな一面も持ちあわせ、かつ仕事熱心で有能ーーこんな上司がいたら最高だと思う。

 

「あの、じゃあ、毎年クリスマスになったら一羽減るなんてことは……」

 

デリケートな質問だとわかっていたけれど、どうしても気になって、失礼を承知で聞いてみた。

 

「ありません」

 

きっぱりと否定され、愚問を恥じた。

 

今日も、勤勉な彼らはハウスの中を闊歩して、業務に励んでいるはずだ。その姿を思い出すたび、わたしはやっぱり、なんだかたのしい気持ちになってくる。

 

『女神のサラダ』
本体1700円+税

 

【あらすじ】東京の会社に勤めていた沙帆は、心身ともに疲れ、どこか違う環境でやり直したいと、意を決して高樹農場に転職することになるのだが……。ーー(夜明けのレタス 群馬県昭和村・高樹農場)。全国各地を舞台に、農業に関わる女性を描いた全八編の短編集。

 

【PROFILE】たきわ・あさこ
1981年、兵庫県生まれ。2007年「うさぎパン」で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。著書に『乗りかかった船』など多数。

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