ryomiyagi
2020/06/22
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2020/06/22
※本稿は、麻生れいみ『長生き食事術 人生100年時代の「新・栄養学」入門』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
日本人は摂取カロリーの半分ほどを糖質から摂っています。それを減らすと何かマイナスの作用が出るのではないか。そう心配する人もいるでしょう。
こうした心配は杞憂。糖質は必須の栄養素ではないからです。
栄養素とは、体内で必要量を作り出せないため、食事から取り入れるべきもの。糖質、脂質、たんぱく質の3大栄養素のうち、脂質とたんぱく質は、体内で作り出せないものがあります。
脂質には必須脂肪酸、たんぱく質を作るアミノ酸には必須アミノ酸があり、どちらも日々の食事から摂る他ないのです。
それに対して糖質は、体内で必要量が作り出せます。これが「糖新生」と呼ばれる仕組み。
糖新生とは、脂質に由来するグリセロール、たんぱく質に由来するアミノ酸など、糖質以外の物質から、新たに糖質を作り出す反応。肝臓と腎臓で日常的に行われています。
血糖はすべての細胞のエネルギー源となるため、血糖値はある一定ゾーン内に収まるように調整されています。
血糖値が下がり始めると、すい臓から分泌されるグルカゴンというホルモンなどの働きによって、肝臓に蓄えているグリコーゲンという糖質を分解して血糖に変えます。
加えて糖新生が促されて血糖として放出されます。こうして空腹時の血糖値は一定ゾーン内に収まっています。
それを崩してしまうのが、糖質過多の食事による血糖値スパイク。血糖値が上がるとグルカゴンは出なくなり、グリコーゲンの分解や糖新生は即座にストップします。
血糖はすべての細胞のエネルギー源となりますが、ほとんどの細胞は血糖しかエネルギーにできないわけではありません。
糖質制限へのよくある批判に「脳は糖質しかエネルギー源にできないから、低血糖になって頭が働かなくなる」というものがあります。この批判には2つの誤りがあります。
ひとつ目の誤りは、前述のように血糖値を一定ゾーン内に収める仕組みがある事実を無視していること。
このメカニズムが正しく働いている限り、低血糖になる心配はありません。むしろ低血糖になりやすいのは、糖質過多で血糖値が急上昇したあと、反動で下がる血糖値スパイクが起こるときです。
ふたつ目の誤りは、脳のエネルギーは糖質だけではないことを見逃している点です。
脳を作っている神経細胞は、血糖が大好物。疲れているときに甘いものを一口食べるとホッとすることからもそれはわかります。けれど、神経細胞は血糖以外にも、脂質に由来する脂肪酸やケトン体という物質をエネルギーにできます。
脳につながる血管には、「血液脳関門」という関所のような場所があります。大事な脳に有害なものが入らないように守っているのです。
血糖はもちろん脂肪酸もケトン体も血液脳関門を素通りできます。そして血糖が足りなくなった場合には、脂肪酸やケトン体が脳のエネルギーとなってくれるのです。
ちょっと計算をしてみましょう。
脳はつねに活発に活動しており、私たちが消費している1日の総カロリーの20%を使っているとされています。
日本人の平均的な消費カロリーは1日2000㎉ほどですから、その20%というと脳だけで400㎉を使っている計算です。
糖質は1g4㎉ですから、400㎉を糖質のみでカバーするには、100gの糖質が求められます。
それに対して糖新生では1時間に平均すると6gの糖質が生み出せます。1日140g以上ですから、仮に脳が糖質しかエネルギーにしないとしても、糖新生のみでフルにカバーできるのです。
血糖しかエネルギーにできない代表的な細胞は、血中で酸素を運んでいる赤血球。脂肪酸やケトン体をエネルギーにするには、細胞内にミトコンドリアという器官が必要ですが、赤血球はミトコンドリアを持たないため、糖質しかエネルギーにできません。
全身の赤血球が消費する糖質は1時間当たり2g。1日24時間トータルで48 gです。脂肪酸やケトン体以外に脳が消費する血糖(平均1時間当たり4gとされています)を加味しても、糖新生のみで血糖の必要量は確保できる計算です。
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