新しさと人のつながり。今も昔も下町が魅力的なのにはワケがある
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BW_machida

2021/02/08

 

著者は、消費社会や家族、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案する三浦展さん。人情味があって、どこかレトロな雰囲気漂う東京の「下町」はどうして人を惹きつけるのだろう。その理由を探ると、社会の中で下町が果たしてきた役割が見えてきた。

 

下町のイメージが広く定着している葛飾区や足立区だが、じつはこれらの地域が下町と呼ばれ親しまれるようになったのは、比較的最近のことだ。1969年にフーテンの寅さんの映画『男はつらいよ』が封切られ、テレビドラマでは、1974年に谷中の銭湯を舞台にした『時間ですよ』が放送。1980年頃に漫才コンビ、ツービートのビートたけしが足立区の下町のペンキ屋の息子だとネタにしたことが、葛飾区や足立区を下町だとおおくの人々に思わせたのだと著者は指摘する。

 

雑誌『non-no(ノンノ)』の1971年7月号で特集された「ポップな街『浅草』探検」からは、下町文化が当時の人びとにどのようなイメージ与えていたかを知ることができる。記事によると、浅草は「いま東京でいちばんポップでたのしい街」で「新宿や六本木に飽きた人なんか絶対うれしがっちゃう新鮮さとフシギさと独特の美意識がやたらころがって」いて、「日本的ないいもの」がたくさんあり、「いっそ西洋人になったキモチでじっくり見て歩くと、思いもかけないアクセサリイやリビングの小道具なんか…見つけられる」ポップの元祖の街、だというのだ。

 

こうして新たな価値を与えられた下町が、いま再び、とくに若い世代を中心に関心を集めている。その理由を著者は現代社会の在り方のなかに見いだす。

 

バブル時代までとは異なり、現代を生きる人々は未来に不安を抱えており、物質的な豊かさを追求することにあまり興味がない。そのため新しい物を次々と使い捨てていく消費社会に疑問を感じ、人間にしかできない創意工夫や職人手仕事を見直す人が増えたのだという。また、バーチャルではない直接的な顔の見える人間同士のつながりを求める人が増えたことも、下町的な場所が若者たちを惹きつける理由だと著者はいう。

 

ノスタルジーの対象とされる下町だが、下町はレトロなだけではない。下町にも近代があり、むしろ近代化とともに新しく生まれ拡大し続けてきたからこそ、今なお下町は私たちを懐かしませるのだという著者の指摘に納得させられる。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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下町はなぜ人を惹きつけるのか?

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三浦展

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