akane
2018/04/11
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2018/04/11
『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2017」』や、『「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞』にも選ばれ、「忖度」という言葉が2017年を席巻しました。
今となってはもう耳慣れた言葉になってしまいましたが、この言葉をしらなかった、あまり耳にしたことがなかった、という声が最初話題になった頃にはありました。
みなさんは、こうした日本の「忖度」の空気は今現在の問題のみならず、過去にもあったということをご存知でしょうか?
辻田真佐憲著『空気の検閲』(光文社新書)では、戦前・戦中の日本の言論空間を覆った、検閲、あるいは表現規制における「忖度」の空気について解説されています。
「検閲」と聞いて現代を生きる私たちの多くがイメージするのは戦前・戦中期の検閲ではないでしょうか。その時代の検閲には「正規の検閲」と「非正規の検閲」があったといいます。
≪検閲官は国家権力を代弁し、各種の法令などに照らし合わせながら、機械的に審査をおこなって判断を下す≫
こうした手続きをとる検閲が、「正規の検閲」といえます。
ただ、現実には、ブラック労働が想起されるほど、検閲の実務を執り行う検閲官の数は少なく、技術的な陥穽や、抜け道だらけの法律とあいまって、すべての検閲の対象物を確認することはできませんでした。
そこで必要になったのが「非正規の検閲」です。
検閲による発禁処分は多大な損害を被るので、出版人や言論人も望まざるところでありました。そこで検閲官たちは編集者たちに便宜を図り、出版前のゲラ刷りを用意させることで、問題になりそうなところを予め指摘する「内閲」制度をつくりあげました。
この手続きによって出版社や新聞社は、削除や伏字による対応をとることができ、無事に本を出版することが可能になります。また、検閲官にとっても発禁処分や差押などの手続きを省くことができました。
こうした内閲制度はあくまで一例にすぎませんが、日々出版人や言論人とコミュニケーションを取ることで、検閲官は出版人や言論人へ問題となりうるテーマや表現を示唆でき、以降の自主規制や自己検閲をうながすこともできるようになり、多忙な彼らにとってはまたとないコストカット手段になったようです。
こうした便宜的な手段、つまり「非正規の検閲」が当時の日本の「正規の検閲」を有効に機能させました。マスコミによる「忖度」つまり「非正規の検閲」が検閲制度を完成させたのです。
諸国の検閲においても「非正規の検閲」はありましたが、とくに日本の検閲においては「非正規の検閲」がその力を発揮しました。「正規の検閲」と「非正規の検閲」を合わせた日本独自の検閲を、本書では「空気の検閲」と呼ばれています。
過去や現在にも「忖度」が起きた、ということは未来においても「忖度」による問題が巻き起こることが言えそうです。さらに詳しくこの問題について考えてみたい方は『空気の検閲』を一読されてみてはいかがでしょうか。
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