生まれ育った家が壊れていく…実家を「負動産」にしない“相続地獄”回避術
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ryomiyagi

2021/02/09

 

総務省統計局調べによれば、現在およそ7戸に1戸が空き家だという。言うまでもなくそれは、高度経済成長期が巻き起こした「核家族化」や地方における「人口減少」に始まり、この20年で顕著になった「高齢化社会」がもたらした現象だ。さらに恐るべきは、この空き家化現象に歯止めなどかかるわけはなく、年々増加の一途をたどり、なんと2033年には3戸に1戸が空き家になるという。
3戸に1戸が空き家の町。人はそれをゴーストタウンを呼ぶ。

 

などと問題視されながらも、今も都会には高層マンションが建設され、新婚カップルの多くは戸建ての新居を夢見がちだし、そんな夢に邁進する成年男子を、「一国一城の主」などと誉めそやす向きすらある。
そうして手に入れたマンションから、住む者もなく、廃墟と化した空き家を見下ろすのである。

 

空き家を放置しておくと、どんどん家が荒れてしまう。台風で屋根が吹き飛ばされたり、自宅の一部が倒壊しようものなら、近隣住民に迷惑をかける訴訟沙汰にもなる。自分が使う気が無いのだったら、少しでも値段がついている段階でさっさと売り払ってしまったほうがよい。そうしないと、お金をもらうどころか、こちらからお金を出さなければ誰も引き取ってくれないマイナスの資産になってしまうからだ。

 

空き家問題を語るとき。その多くは、「害虫・害獣の住処」「倒壊」「火事」などが言われる。
人の住まなくなった家など、日々朽ちていくだけで、都市圏にでもない限り資産価値など無いに等しい。ではどうすればいいか。
本書は、香川県出身のタレント、松本明子さんの例を上げて解説している。そして松本さんは、父親の「家を守ってくれ」という遺言を25年にわたって守り抜いた。

 

25年間も空き家だったにもかかわらず、固定資産税や水道光熱費を律義に払い続けた。その総額はなんと1800万円にも及ぶそうだ。

 

加えて後年、620万円をかけて家族の緊急避難先としてリフォームまでしている。

 

その家を不動産業者に査定してもらったところ、買取価格は300万円程度、解体するとなると撤去費用は500万円かかるという。どうしたものかと途方に暮れながら香川県の「空き家バンク」に登録してみたところ、640万円で買いたいという希望者が現れ、リフォーム代を回収できた。

 

「土地は二束三文、うわもの(家屋)はゴミ」
これが、地方の空き家にまつわる一般的な常識。なんとか土地に値段が付いたとしても、土地を売るべく更地に戻すには「ゴミ」と呼ばれる「うわもの(家屋)」を処分しなければならない。古材を引き取ってもらったり、産廃業者に来てもらったりと、想像以上にお金がかかるのが現状である。
ましてや、気分に任せて購入した別荘など、よほどの趣味人か恵まれた環境にある方でなければ無用の長物どころか厄介な代物でしかない。

 

もし親が自宅以外に地方に別荘を持っていたならば、自分が使わない不動産はすぐ売る。あなたが親の立場なら、あとで子どもたちが相続で困らないように、使わない不動産は最初から持たない。これが大原則だ。(中略)
私の知人が、よせばいいのに新潟県の越後湯沢にあるタワーマンションの一室を買った。バブル期には4000万円以上したタワマンの部屋を、150万円で買い叩いた。「さすがにこれ以上値崩れすることはないだろう」と甘く見ていたら、たった数年で50万円まで値崩れしたそうだ。
タダ同然の値段で投げ売りされているのに、管理費は1カ月数万円もかかったりする。越後湯沢へスキーに行くのなんて年に数えるほどの回数なのに、タワマンをもっているせいで管理費と固定資産税が毎年どんどん垂れ流される。もはや地獄だ。

 

言うまでもなく別荘など持ってない私に、スキーリゾートの話など無用だが、それでも生まれ育った実家の処分には苦い思い出がある。
田舎とはいえ、100坪の敷地を持つ家となると、誰しも即座に7桁の高いところを連想する。私たちもそうだった。
3人(私を含め)の子どもはそれぞれに独立し、残った母も妹に引き取られることとなり、家族は皆、処分することに異存はなかった。幸いにして買い手の目途も立ち、後は更地に戻すだけとなり、解体業者も安いところが見つかった。そうして全てが片付き、いよいよ司法書士を立てて売買成立となったその日、実印持参で揃った家族の前に提示された残金を見たときの母の表情は今も忘れられない。
土地を買うところから始めて40年。公務員の父と二人で慈しんだ家・土地を、子どもたちの未来の資金になればと処分に踏み切ったにもかかわらず、手元に残ったのは400万円にも満たない金額なのだ。ここからさらに税金が引かれれば、各自の手元に数十万円も残ればいいほうだ。実際残ったのは30万円ほどだったが、とても母には言えなかった。
結婚する前は銀行員だった母には、すぐさまそんな計算ができたのだろう。それとも、父や子どもたちと過ごした40年余りの思い出が去来したのか、あの時母が見せた、驚きと落胆の表情は、今も父の死去から相続までを思い返すとき、最も苦い思い出として私の中に残っている。

 

還暦を過ごし、それでもまだ数十年の猶予がある…と言われる超長寿国・日本にあって、これからさらに働かなければいけないのかと暗澹たる気分にすらなりがちだが、この猶予期間を使って後代に残すべき物と処分すべき物を正しく選別する。それこそが、のちの世代に求められている仕事ではないのだろうか。
そんな風に、私自身にとっては幾分か後ろ向きだが、残された者にとっては極めて前向きな仕事に目覚めさせられた。経済アナリストとして、また著名な好事家としての硬軟取り交ぜた正しい「終活」のアドバイス、それが『相続地獄』(光文社新書)だった。

 

文/森健次

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