ルービックキューブ生みの親と、彼の発明したキューブにインタビュー!
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ryomiyagi

2022/03/29

 エルノー・ルービック(ルービックキューブ発明者)
&ルービックキューブ

 

1980年の発売から40年余りで、累計3億5000万個を売り上げたルービックキューブ。その発明者エルノー・ルービックが、キューブが辿った数奇な運命と尽きせぬ魅力を綴った初の自伝『四角六面 キューブとわたし』から、読みどころをピックアップしました。

 

質問者 ルービックさん、お越しいただきありがとうございます。さて、わたしはキューブを持ってきていまして、始める前に、もしよかったらサインをいただけますか? ありがとうございます! はい、それではまず簡単な質問から。ご著書には満足されていますか?

 

(二人、声をそろえて)
ルービック いつものことですが、思い描いたようにはいきませんでしたね。

 

キューブ はい、満足してます!

 

 

質問者 お一人ずつ説明していただけますか?

 

ルービック 本の序盤で記したように、わたしは書くことや言語表現が苦手なんです。キューブが世界中で謎めいた存在であることや、キューブとの関係に留まらないわたしの人生を描いた本にしたいと思っていました。この企画に着手したとき、はっきりとした構成や物語のない本にしようと決めました。章立てをせず、始まりも終わりもないような本を思い描きました。もちろん、現実にはそれでは成り立ちません。わたしの今の願いは、この本の構成をどう考えるか、読者に委ねることです。読者がわたしより賢いことを願っています。

 

キューブ 僕としては、とびっきり嬉しいです! 40代の今、僕のとても豊かで面白い人生はまだ始まったばかりですが、僕目線の物語をきいてくれる人は誰もいませんでした。だから、やっと話せるんです! 話すの、大好きなんですよ!

 

質問者 本のタイトルはなぜCubed(原題)なんですか?

 

ルービック わたしにとっては、一番いいのはタイトルをつけないことだったんです。でもおわかりのように、タイトルは欠かせないと思われていますね。キューブの名前はわたしとつながりがありますし、わたしは著者なので、タイトルはキューブと共有しなければフェアでない気がしました。キューブが生まれたとき、わたしは元々、「マジックキューブ」と名付けていました。しかし魔法には悪いものと善いものがあります。悪い魔法を使えば、大きな力を持つ誰かが少年をカエルに変えてしまいます。しかし善い魔法を使えば、カエルは王子になれます。わたしはキューブに魅せられ、保護するような気持ちで名前をつけました。正式な王位継承権を持てない養子の立場に、子どもを迎え入れるように。キューブに名前を付けたのは当初は感情的な理由からでしたが、その後は合理的、法的事情が絡んできました。

タイトルは必要でした。わたしはキューブとつながりのあるタイトルにしたかったんです。直接的ではなく、ひねりのある形で。おわかりだと思いますが、「cubed」という言葉は幾何学的形式としてのキューブと関係があり、空間に存在する体積を指しています。一次元で測れるのは距離で、二次元で測れるのは面積だけ、そして三次元になると体積。正直に言うとね、キューブ、これはわたしと君のことだけを表しているんじゃないんだ。でも君が大好きな人たちについての多くのことを表していると、最終的に君がわかってくれるのを願っているよ。

 

キューブ 何言ってるのか、途中からさっぱりわからないよ。でも、別にいいよね?

 

 

質問者 書き終えて、お二人ともどんな気分ですか?

 

(声をそろえて)
キューブ わくわくしてる! 生き生きした気分! 興味津々! はしゃいでる! 最初からもう一度やりたいよ。

 

ルービック くたくたです。息も絶え絶え。うんざり。真面目にお答えすると、出来上がったものは、まだ本当に完成したわけではないという感じがしています。これから大変な仕事が始まるんですから。ご存じのように、わたしは建築家です。ですからわたしにとって、あなたが手にしている本はまだ設計モデルなんです。今、皆さんに読んでいただく時が来て、チームワークがスタートし、共有することになりました。残念ですが、全てを改良するにはまだ時間がかかります。

 

質問者 お二人は全く違いますね。お互いの対照的なところを教えていただけますか?

 

ルービック 簡単ですよ。この会話でおわかりでしょう。わたしは自分について語るのが苦手ですが、キューブは語るのが大好きです。それに、キューブはここで自分が話題になっていることも喜んでいます。キューブはとても社交的ですが、わたしはあまりそうではありません。キューブは言語を身に付ける必要がありません。言葉を介さなくても、誰とでもコミュニケーションが取れます。わたしが話せるのはハンガリー語と、英語を少し。キューブは完璧です。わたしはいつも自分の長所を探していますが、なかなか見つかりません。キューブの外見は決して変わりません。しかしわたしは白髪交じりで皺があり、読書するにはメガネが必要です。キューブは不死身ですがわたしは違います。

 

キューブ なんだか悲しい言い方! 僕は、過去でも未来でもなく、今この瞬間だけを生きてるんだよ!
ルービック 「現在」というものは存在しないんです。時間軸上の、無次元の移り行く点でしかありません。過去からやってきて、果てしない未来へ進んでいく。しかし逆も言えます。存在するのは現在だけで、過去は既に終わったこと、未来はまだ訪れていない。

 

質問者 ちょっと割り込んでもいいですか? キューブさんにご質問があります。本のテーマになるのはどんな気分ですか?

 

キューブ 嬉しいよ! でもほら、これまでにもたくさんの本のテーマになってきたから、そんなに新しい経験じゃないんだ。今回新しくて面白かったのは、エルノーと一緒にやったこと。こういう活動にはとても馴染みがあるよ。僕にはひねりのセンスがある。それにエルノーが新しい方法で僕のことに取り組んでいるのを見るのは、とても特別なことだった。エルノーは50年近く前から僕に取り組んでいるけど、今、これまでとは違った機会を手に入れて、違ったアプローチをしている。
それがより良いことだとは言えないな。実は悪くなっているかもしれない。今になって考えると、もっと僕自身が自分を表現する機会がたくさんあった方がよかったよ。

 

ルービック わたしには質問されていないのはわかっていますが、付け加えたいことがあります。キューブの回答ではなく、ご質問に対してコメントしたいことが。これは質問が同時に事実を言い表している、いい例ですね。それ自体は必ずしも問題ではありません。言い表していることが真実でない場合に問題になるんです。キューブはこの本のテーマではありません。わたしより重要で興味深くカラフルなキューブがテーマの一つであるとは言えます。しかし本当のテーマはわたしたち、万人についてなんです。

 

 

質問者 さて、今後の計画は?

 

キューブ どんどん教育に関わっていきたいな。スポーツでの目標はオリンピック! それにアートギャラリーを開くのも素敵だと思う。僕はもう映画スターにはなった。脇役は何回かやったけど、主役をやりたいな。僕の記念碑はあるけど、まだ生きてる。でもケーブルテレビの番組に出たい……なんてことは言わないでおきたいな。知ってると思うけど、僕はすごく控えめだからね。

 

ルービック 教育にもっと関わっていくのは素晴らしいことだと、わたしも思います。引退後の果てしない日々を生かすために、自分の中にまだいくつかアイデアが残っているかもしれません。

 

質問者 最後の質問になります。お互いがどういう存在か、教えていただけますか?

 

ルービック うーん……密接な関係だと思います。パートナーで共謀者ですね。お互いの本質的な特性をとても深く理解し合っています。そしてやっぱり、キューブはこれからもずっとスターですし、わたしにもそれがしっくり来るんです。

 

キューブ もちろん、エルノーは母なる自然と並んで僕の親たちの一人だし、信頼してるよ! やっぱり僕はエルノーが作り上げたものだからね。でもどういうわけか、僕もエルノーを変えた。エルノーが僕の人生を切り開いたのと同じように、僕もエルノーの人生を切り開いた。僕なしでは、おかしなアイデアを持ったただのハンガリー人だっただろうね。

あっ、もう時間だ! ごめん、この後、ファンとの約束が入ってるんだ。もうすぐ行かなくちゃ。……二人でまだ遊んでたら?

 

この記事を書いた人

エルノー・ルービック Erno Rubik
ハンガリーの発明家、建築家、建築学教授。1974年に発明したルービック・キューブはたちまち世界中で人気となり、商品化された1980年以降、世界で3億5000万個のキューブを売り上げ、人口の7人に1人がこれで遊んだことがあると言われる。最近では、巡回展示の〈ビヨンド・ルービックキューブ〉など子供たちに科学や数学や問題解決に親しんでもらうための団体にかかわっているほか、ハンガリーの学生に北米留学の機会を提供するプログラムでも委員を務めている。

 

ルービックキューブ
エルノー・ルービックによって考案された三次元パズル。発売から40年以上が経ち、世界中で愛されている。もっともポピュラーな3×3のほか、4×4や5×5のものもある。

 

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四角六面キューブとわたし

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