かくも奥深い「一杯」の世界。真の「ラーメン愛」とは!?|青木健『教養としてのラーメン』
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2022/04/18

 

この本は、より深くラーメンを知りたいと望むラーメン好きのための気軽な専門書である。美味しいラーメン屋さんの紹介もなければ、新店の情報もない。ラーメン愛好家たちが知っている知識以上のことは、この本には載っていないのだ。

 

「どのお店へ行っても、どの地方を訪れても、変わらない知恵を持つことが、ラーメンを楽しむ一番の近道だと思う」「美味しいお店をたくさん知ることより、大事なのはご自身を知ること。究極の一杯を見つけるよりも、どの店でも楽しめる自分になる」という言葉からは、溢れんばかりのラーメン愛が感じられる。どんな有名店で食べたか、とか、ラーメン知識を自慢するのではなく、ラーメンの世界を広げていける、そんな人になってほしい。だから、タイトルは『教養としてのラーメン』。

 

「本当に感性の豊かな人は、ラーメンに精通などしていなくても、その魅力や本質を鮮やかに捉えて、自分の言葉で語ってくれる。私はそんな人に憧れます。それが知識ではなく、教養というものだと思うのです。」

 

著者はラーメン業界を専門にユニフォームやメニュー表、暖簾や丼、店内POPなどを製作するデザイナーであり、イラストレーターだ。これまで50店舗以上のラーメン店のロゴを手掛けてきた。もちろん、ラーメンの教養を備えた人物である。

 

あるいは私のようにもう何年もラーメンを食べていない、まったく教養のない人間こそ本書を手にとるべきかもしれない。どこを読んでも、ラーメンにまつわる驚きと発見の連続だった。たとえば「ラーメンの箸といえば割り箸」らしい。異論は認められない。とはいえ、長いこと割り箸一辺倒だったラーメン界にも、エコロジーの一環でマイ箸ブームが流行ったことがある。客が箸を持参し、食後に箸を洗ってくれるサービスもあったという。その後、流行は収束するが一部の店では「置き箸」というかたちで継続されたようだ。

 

ラーメンを食べるのに著者が推奨しているのが、竹箸である。「箸の先も太めで、四角く角ばっている。言わずもがな、割り箸に近い」という特徴が高く評価された。しかし重要なのは竹箸であるかどうかよりも、その店のラーメンに合っているかどうかだという。

 

「私が初めてロゴデザインを手がけた店『凪』が、オープンから数年後、置き箸を用意しました。しかし使ってみるとつるつるとすべってしまう。食べられないことはないのですが、指の又に力が入って疲れてしまった。なにせ太麺なので、箸のつややかな質感と丸み、箸先の細さ、先と手元で角度のついた形状ではホールドしにくいのです。私はその場で竹箸を勧め、店主はすぐ取り入れました。それは独立した弟子の店、『ムタヒロ』にも受け継がれ、広がっていったのです。」

 

箸だけでなくチャーシューにも流行がある。かつて「脱チャーシュー」として白身魚のフライが提供された時代があったことを、本書を読んで初めて知った。ラーメンは知らぬ間に変化を繰りかえし、進化していたらしい。それにしても、ラーメンの世界は奥深い。

 

『教養としてのラーメン』
青木健/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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