akane
2019/03/15
akane
2019/03/15
宇宙は現在から100兆年後になると、銀河そのものが体をなさなくなります。太陽はあと50億年後に死にますが、太陽より軽い恒星は熱核融合の効率が低いので長生きがです。しかし、それでも、「燃料切れ」は容赦なくやってくるのです。100兆年後にはすべての恒星が燃料切れを起こし死んでしまうことになります。これはつまり、恒星の輝かない銀河になるということです。
残っているのは、恒星の残骸と暗黒物質だけです。物質はあるので、物質塊として、銀河は存在しているでしょう。しかし、それを銀河として認識することはできません。宇宙に銀河が見えない時代が、いずれやってくるのです。暗黒時代です。
10の34乗年後には原子が死ぬと考えられています。現在、人類が手にしている素粒子の大統一理論が正しければ、水素原子核である陽子は壊れます。これは“陽子崩壊”と呼ばれている現象です。自然界にある基本的な力は4種類あり、重力、電磁気力、原子核に関連する強い力と弱い力です。重力を除く三つの力を統一する理論を大統一理論と呼んでいます。
重い粒子の中で最も軽い陽子はそれ以上壊れることはなく安定していると思われていましたが、大統一理論の枠組みでは壊れることが予想されているのです。ただし、崩壊にかかる時間は極めて長く、それが10の34乗年という時間です。
しかし、この宇宙から原子が消えたらどうなるのでしょう。私たちの身体は原子でできています。地球も太陽もです。つまり、恒星も銀河も生命体も消えてゆくことを意味するのです。その宇宙に知的生命体がいるとは思えません。誰にも認識されず、宇宙だけがあることになるでしょう。
最後は、10の100乗年後の宇宙です。検索エンジンや多数の事業で名を馳せるグーグル社があるのはご存知でしょう。グーグルは google と書きますが、じつはもともとは googol が本来の社名になるはずでした。googol は10の100乗という意味です。100万台を超えるコンピューターを擁し、その程度の回数の計算なら朝飯前。そう思っていたのでしょう。
さて、10の100乗年後の宇宙はどうなっているでしょうか。暗黒エネルギーがそのまま活躍すれば、宇宙はまだ膨張を続けているはずです。膨張するにつれ宇宙の温度は冷えていきます。その頃には、宇宙の温度はほぼ絶対零度になっていると予想されます。そこは、崩壊しなかったものだけがひそやかに残る、極低温の墓場です。
ところで、超大質量ブラックホールも消え去るのでしょうか。ホーキング放射でやせ細ることは確かです。なぜなら、10の34乗年もすると陽子が崩壊し、原子と呼べるものはなくなる。ブラックホールの餌となるべきものが宇宙から消え去るのです。
銀河団スケールの質量の超・超大質量ブラックホールが生まれたときには、原子物質のみならず、ダークマターも呑み込んで成長したはずです。もう、周りにはブラックホールの餌となるべきものは残っていません。虚空にぽっかりと浮かんでいるだけの存在になります。
そのため、ブラックホールの運命は次のようになるでしょう。
・太陽質量のブラックホールは10の66乗年で蒸発する。
・銀河質量(太陽の1000億倍)のブラックホールは10の99乗年で蒸発する。
・銀河団質量(太陽の1000億倍の1万倍)のブラックホールは10の111乗年で蒸発する。(ここで、銀河団の質量は銀河の1万倍としている)
ここでは、10の100乗年を一つの目安にしました。宇宙は熱的な死を迎え、ほぼ絶対零度の世界になっていると予想できます。
これは熱力学的に見れば自然な死です。
しかし、宇宙は単純な熱的な死を迎えるわけではありません。もともと物質があり、その重力が構造を造ってきた歴史を持っています。つまり、構造形成に重力が重要な役割を果たしてきたことは確かです。
そのため、宇宙の死は熱力学的な死ではなく、重力的熱力学的な死を迎えることになります。それはグラヴォ・サーマル・カタストロフ(gravo-thermal catastrophe)と呼ばれる現象です。その最期を飾るべく、超・超大質量ブラックホールの残骸が宇宙に散らばっている可能性が残されているのです。
もう誰もそれを見ることはないでしょう。しかし、もし誰かがそれを見たら気がつくはずです。
この宇宙は空っぽの宇宙だったわけではない。物質が活躍した時代があったのだ、と。
そして、その残骸として超・超大質量ブラックホールの名残を見ることができている、と。
華やかな時代――。
それがどのようなものであったかはすぐにはわからない。しかし、それでもよいではないか。
きっと、美しかった宇宙がここにはあった。
この宇宙は、10の100乗年後にもそれに気づいてほしかったのだろう。
※以上、『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』(谷口義明著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。
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