『白ゆき紅ばら』著者新刊エッセイ 寺地はるな
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ryomiyagi

2023/03/01

愛だから困る

 

『RBG 最強の85才』という映画がある。アメリカの連邦最高裁判事をつとめたルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリーである。彼女が「女性を優遇してくれとは言いません。男性の皆さん、私たちを踏みつけるその足をどけて」と発言する場面があった。以前、私がこの言葉を知人男性との会話中に引用した際、彼はぎょっとした顔をしていた。この映画を観た多くの男性も似たような反応を示したのではないだろうか。自分も男性だが女性を尊重している、差別するやつがいるなんて同じ男性として許せない、と思った人もいるだろう。

 

フィクションでは酷いことをする人物はもともと性格に難があった、もしくは生育環境に問題があったせいでそうなったのだと描かれがちだし、私たちは現実に事件がおこった時にも「加害者はどんな性格か」とか「どんな育ちかたをしたのか」を知りたがり、関連性を見出そうとする。しかし実際、子どもが大好きだった女性が子どもを虐待したり、心優しい男性が女性を暴力で支配したりする事例はいくらでもある。「踏みつけよう」という明確な意思を持って他者を踏みつける人は少ない。男性でも女性でも誰でもそうだ。私もまた。

 

『白ゆき紅ばら』の世界で生きる人びとの行動原理は「愛」である。ある者は特定の人物への熱烈な、またある者は他者すべてへ普遍的な愛があり、そのせいで歪みが生じる。愛しかないのに、愛しかないから、どんどんまちがった方向に進む。全員「これは愛なので正しい」と思っているので、軌道修正しようがない。愛だから困る。みんなまちがっている。こんな物語世界は嫌だ、と思う人も少なくないだろうと思った。でもどうしても書きたかった。人間はかならずまちがえる。その事実にこそ救われる人間はかならずいるし、私もそのうちのひとりだからだ。

 

『白ゆき紅ばら』
寺地はるな/著

 

【あらすじ】
行き場のない母子を守る「のばらのいえ」。かわいそうな子どもを救うというある夫婦の愛と理想と正しさに縛られ、未来のないその家から逃げ出した祐希は、しらゆきちゃん、べにばらちゃんと呼ばれ、一心同体だった紘果を迎えに行こうと決意する。

 

てらち・はるな
1977年佐賀県生まれ。2014年「ビオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。『夜が暗いとはかぎらない』で山本周五郎賞候補。『水を縫う』で吉川英治文学新人賞候補。

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