ryomiyagi
2023/01/10
ryomiyagi
2023/01/10
私にとって異性、つまり女性との共同生活—平たくいうと結婚生活は大変、有意義なものです。
妻が料理を作れば「今日の酢豚は肉が柔らかいね」とコメントし、妻の外出時、「今日の装いは冬らしくていいね。特に新しく買ったコートとパンツのコーディネートが……」と言いつつ、目を皿のようにして微細な変化も逃さぬようになりました。さらに妻が「このピアスかわいい」などとテレビを観てコメントしたら、何気ない風を装ってスマホでメモしておきます。勿論、妻は優しいので好みにあわない贈り物でも怒りません。ちょっと針の筵かなと思う程度の言動が多くなる程度です。さらに毎日、起床時と就寝時、いかに妻が美しく気立がいいかを客観的かつ公平に言葉で描写することも忘れません。無論のこと毎日ちがう文言を駆使します。同じフレーズを二日連続で使用すれば、なぜか部屋の体感温度が氷点下以下になります。結婚がいかに人を—有体にいえば男性を—成長させるかわかります。ああ、そういえば、いつも「今日の服はどう」とファッションチェックを強要されるので、ある時、「今日の昌輝の着ている服のオシャレポイントは」と逆質問したら、「はあぁ」と女性とは思えぬほど低い声で恫喝されました。このように妻は常に優しい言動で私の至らない点も教えてくれます。
さて本題に入ります。『戦国十二刻 女人阿修羅』は戦国時代の女性の一日を切り取った短編集です。結婚生活で女性の素晴らしさを嫌というほど理解したのに、なぜかとても業の深い女性ばかり登場します(そうじゃない女性も登場します)。とはいえ、小説の世界はフィクション。殺伐とした戦国時代にはこんな女性がいてもおかしくありません(しつこいですが、そうじゃない女性も登場します)。決して現実の誰かがモデルではありません。
とりあえず妻には出版のことは内緒にしとこうと思います。
※このエッセイはフィクションです。
『戦国十二刻 女人阿修羅』
木下昌輝/著
【あらすじ】
生きた、愛した、戦った。歴史の大事に至るまでの一日に色濃く迫る、時代小説イノベーション! 阿茶、ガラシャ、諏訪花、賛姫、ジュリア、義姫、千代。時代小説の名手が描く、荒れ狂う世に翻弄された七人の女性たちの濃密な24時間。戦国十二刻シリーズ第三弾!
きのした・まさき
1974年奈良県出身。2012年「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞受賞。収録作はほかにも数々の賞を受賞。近作『孤剣の涯て』は、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。
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