「楽な姿勢」は危険がいっぱい?|『痛みが消えていく身体の使い「型」』 伊藤和磨
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ryomiyagi

2022/12/27

 

立ったり、座ったり、しゃがんだり、歩いたり。日常的動作のほぼすべては無意識のうちに行われている。けれどわたしたちの多くは、こうした動作パターンをほとんどの場合、「なんとなく」しているにすぎない。本書を手にした読者は、自分が日常動作の「型」を教わったことがないことにまず気付くのではないだろうか。著者は慢性痛や不調は長年の身体の使いかたの癖が原因だと主張する。

 

本書がまず取りあげるのは、日本人の身体文化だ。なぜ江戸時代の飛脚は舗装もされていない、でこぼこ道や草むらを草鞋で走り抜くことができたのか。明治から昭和にかけての、学校で授業を受けている子どもたちの直立姿勢が失われたのはなぜか。その理由を著者は、姿勢について厳しく指導する人が減ったためと指摘する。結果、子どもたちは型なしのぐにゃぐにゃした姿勢になってしまった。型なしで育った人はきっかけがない限り、ぐにゃぐにゃのまま大人になってしまう。

 

「偏った姿勢やだらしない姿勢が楽に感じられるのは、『神経系=意識』を使わずに一部の関節の靱帯と筋肉に体重を預けていられるからです。多くの人は身体がひどくゆがんでいても、その状態に慣れてしまっているので違和感を覚えません。これまで私が診てきた患者さんのうち、8割近くが長年の偏った姿勢と動作パターンに痛みや不調の原因があったのですが、そのことを自覚していた方はわずかでした。」

 

そもそもヒトの身体は左右対称ではない。肺や肝臓などの臓器の形状が左右で異なっていることも関係している。重要なのは、これまで無意識にしていた姿勢や身体の使いかたに意識を向けること。姿勢だけでなく、呼吸の仕方にも気をつけたい。正しい呼吸法はダイエットの効果を高め、睡眠を助けてくれる。赤ちゃんのときには誰もが自然にできていた正しい呼吸の仕方(横隔膜呼吸)が大人になるとできなくなり、浅い呼吸(胸式呼吸)に置き換わってしまう人も多い。

 

座り過ぎと癌の関係も指摘されている。床で生活してきた日本人が椅子に座るようになって100年ほど経つが、座るまでのフォームを含めた椅子への座りかたを教わったことのない日本人は椅子に座るのが下手だという。世界20ヵ国を対象にした統計調査によると、日本人の平均座位時間は一日平均420分で世界一。椅子に座るのが苦手なのに世界で一番、椅子に座っている時間が長いのだから健康リスクに繋がったとしても不思議はない。

 

本書は正しい姿勢や呼吸法を習得するためのコツを動画でも解説している。一生涯使う身体だ。この機会に自分の動作パターンを振りかえり、きちんとした型を学んでおきたい。一生ものの知識が身につく本だ。

 

『痛みが消えていく身体の使い「型」』
伊藤和磨/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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