「いつだって相撲は『今』が一番面白い」――。「真っ向勝負の世界」で勝ち抜く知恵とは!?
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ryomiyagi

2021/07/08

 

「髷も、まわしも、体格も、相撲特有の文化って2021年を生きる者からするとどう見ても変なんですけど」と著者は遠慮気味に相撲の魅力を語るが、体の大きなもの同士が体をぶつけあって闘う、相撲ほどわかりやすい競技はほかにないだろう。1500年もの歴史あるこの競技は、しかし若者人気はイマイチなようだ。そんな、相撲にあまり興味のない人にこそ読んでほしい。

 

本書は、いわゆる相撲の入門書とはすこしちがう。相撲の文化的な側面を取りあげるというよりも、スポーツとしての大相撲の今、力士の実態、世間を賑わせた問題や相撲についての素朴な疑問などが、じつにわかりやすく、赤裸々に紹介される。たとえば外国人力士が強い理由、白鵬がこれほど長く君臨し続ける謎、力士たちの気になる懐事情や一日の過ごし方まで話題は尽きない。

 

読んでみてまずわかるのが、相撲の世界はとても奥が深いということ。誰が見ても勝敗のはっきりとしたスポーツと思いきや、だからこそ闘いの戦略や攻防が面白くなる。

 

「大相撲はほかの格闘技とは異なり、階級制ではありません。大きな力士も小さな力士も同じ土俵で無差別に闘う競技です。また、足の裏以外が土俵につくか土俵の外に出たら負けという競技の性質上、押すか組むかが攻撃の大きな選択肢になります。体重のある力士が押せば威力が増しますし、体重のある力士が組めば相手の攻撃力を落とせる上に自分の攻撃力が増すわけですから、理屈で考えると体重があれば有利に闘うことができることに気づきます。」

 

大相撲では体重制が導入されていないので、体をいくら大きくしてもルール上は問題ない。事実、50年前と比べると力士の平均体重は30キロも増えた。大相撲のトップである幕内力士の平均体重は2018年時点で164kg。かつて巨漢力士とされていた大横綱の北の湖は、晩年は170kgで太りすぎと批判されたという。それが今では、「太るのも一つの才能」と体重を増やすことが重要視されているのだから興味深い。これほどまでの体重のアップダウンが楽しめるのも、相撲ならではだ。

 

体と体をぶつける「真っ向勝負」の大相撲だが、これではもともと体の小さな力士には勝ち目がない気がする。しかし力士は、太りすぎると成績が落ちやすいと言われている。著者曰く、たとえ体が大きくてもスピードが失われてしまえば、せっかくのサイズも活かせなくなるのだという。そんなわけで、今の幕内には小兵力士が増えている。たとえば石浦、照強は110kg台だし、炎鵬に至っては100kgにもみたない。軽くてスピードのある力士は相手をよく研究し、先手を取って攻め続けるのが特徴で、パワーのある相手の力を利用して闘うのだ。

 

こうして見ると、力士によってさまざまな戦い方があることが分かる。なかには、スピードとパワー以外の相撲で生き残る道を模索する者もいる。果たしてこれから相撲界の体格はどう変化してゆくのか。「いつだって相撲は『今』が一番面白い」本書を読んで、その言葉に納得した。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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