ryomiyagi
2020/02/21
ryomiyagi
2020/02/21
仕事でより良い結果を出すためには、フィジカル面は言うに及ばず、メンタルコンディションが極めて重要だ。たとえ体調が万全だったとしても、極度に緊張していたり、心ここに在らずといった状態では最高のパフォーマンスは発揮できない。
重要な会議やプレゼン、面接の前。
そわそわと落ち着かない気持ちでいるなら、1分間だけ薄目の状態にして、次のような眼の運動をおこなってみてください。
ゆっくりと、大きく、眼を左右、上下、斜め上下方向に、またぐるっと円を描くように動かします。ゆっくりとしたリズムから始め、だんだん速くしてみたり、自分が気持ち良いと感じられるテンポを探してみるのが良いでしょう。
「人に嫌われたらどうしよう」「仕事で重大なミスをしたらどうしよう」
そんな不安に襲われたときも、眼を3秒間ぎゅっと強く閉じてみましょう。そしてそのままアゴを上げて上を向き、今度は大きく眼を見開きます。
すると一瞬で、自然と前向きな気持ちが湧いてきます。
気持ちを落ち着かせて、最高のパフォーマンスを引き出す。
それが、たったの3秒間固く眼を閉じて上を向いて眼を見開くだけの動作で得ることができる。
情報社会に生きる私たちは、さまざまな精神的なプレッシャーに日々悩まされています。職場で、学校で、もしくは家庭内でも、緊張や不安や恐れと直面している。
ましてや肉体を極限まで酷使しながら、対戦者や記録と戦うアスリートは、常に最高のパフォーマンスを常に求められている。
実はそんなトップアスリートたちの中にも、「ビジョントレーニング」に期待を寄せる人が増えている。
「ええっ、こんなに眼が動かないなんて!」
2015年の12月、ロンドンオリンピック金メダリストの村田諒太選手の眼の動きを始めてチェックしたとき、私は驚きを隠せませんでした。
これほど素晴らしい実績を持つ選手が、眼を十分に使えていないなんて…。
ロンドンオリンピックにおいて日本人初のボクシング・ミドル級金メダリストとなった村田諒太選手は、その後、オプトメトリー・ドクターの北出を訪ねていた。
同じく現役時代に眼のトレーニングに通っていた飯田覚士選手(元WBA世界スーパーフライ級チャンピオン)から北出のビジョントレーニングを勧められてのことだ。
具体的にいえば、眼を動かしているときに眉間にシワが寄ったり、また、眼ではなく顔を動かしてものを見ていたりしていたのです。ボクシングの選手で眼が動きにくいということは、視野が狭くなり、試合のときに大きなハンデにもなります。
驚いたと同時に、私は内心、村田選手に対して期待が高まり、ワクワクしました。
「こんなに眼が動かない状態で金メダルが取れたということは、眼のトレーニングをしたら、どれほど素晴らしい選手になるだろう」
最も速かったとされるフィリップ・ジョーンズ選手(1988年。現在はすでに超えられている)の計測されたパンチスピードが時速50km。これを分かりやすく時速36kmに置き換えて換算すると、秒速10mとなる。これをさらに、ジャブが届く腕の長さを0.8mとして計算すると、繰り出されたパンチが顔面を捉えるのに要する時間は0.08秒。
人間が瞬きする間を「一瞬」とするならば、それはおよそ0.36秒。
瞬きする間に、4発も5発も顔面にヒットさせられることになる。
そんなボクサーにとって、本来眼で捕らえられる動きを、顔を動かすことで補っていたとすれば、これに要するコンマ数秒の遅延は致命的だ。
かつて「ボールが止まって見えた」とコメントしたホームランバッターがいた。その後このコメントは、この選手を語る上での天才が故とする逸話として、また天然が故とするエピソードの一つとしてさまざまなメディアを通して語られ続けている。しかし、ボクサーのパンチスピードや、ピッチャーの投げるボールに対してスウィングするバットスピードなど、「瞬時」とか「刹那」の時間間隔で戦う者が有する時間感覚ならば、そういう言葉でこそ表現できるのかもしれない。
その後、村田選手は毎日熱心に眼のトレーニングを続けました。私から見てもみるみる眼の動きが改善され、本人も、トレーニングを始めてから視野も広がり、相手のパンチが見やすく、ゆっくりに感じられるようになったといいます。
2019年12月23日に行われたスティーブン・バトラー選手との防衛戦にも見事完勝。
その落ち着いた戦いぶりは、相手のパンチがしっかり見えていたのだろうと思わせるに十分なものだった。
それはボクシングに限ったことではなく、「飛んでくるボールをうまく捕れない」という状況も同じく言えることではないだろうか。
遠くのボールを眼で捕らえることは、視力が良ければ問題なくできることである。ただしここから、飛んで(移動して)くるボールの軌跡をイメージし、到達地点を瞬時に計測して、さらに四肢にそれらの情報を正しく伝える。
これらの複雑な視覚情報を伝達することこそが、アスリートに求められる能力だ。
女子バレーボールVリーグ1部のチームのある選手が、最近、眼のトレーニングに来られました。
Vリーグの選手に選ばれるほどの実力があるので、眼の動きもある程度、一般の人よりはよいはずだと考えていたのですが、眼球運動のテストをしたところ、眼の動きの中で、苦手な方向があることがわかりました。
さらに具体的なヒアリングをしてみたところ、その選手は、苦手なサーブレシーブのコースがあるといいます。そのコースが眼で捉えにくいために、いつも体を不自然に動かしてしまうということでした。
苦手な方向の改善を中心とした眼球運動トレーニングを、毎日数分おこなってもらいました。すると1週間ほど続けたところで、それまでほとんど受けられなかった苦手なサーブが、しっかりと受けられるようになってきたといいます。
それだけでなく、監督やコーチにもその効果が認められ選手全員が実践するようになりました。
このように、眼球運動トレーニングをメニューとして取り入れるアスリートは年々増加している。
トップアスリートの境地には及ばなくとも、スポーツを楽しんでいるときに、「こっちから飛んでくるボールはうまく捕れない」といった経験を持つ方もいるだろう。いうまでもなく、そのスポーツに対する身体能力の限界もあるだろうが、もしかすると、眼球運動の差異によるものかもしれない。
もしもそうだとしたら、正しい眼球運動をトレーニングすることによる、改善できる余地があるにちがいない。
文/森健次
モデル/青木梨沙
写真提供/北出勝也
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