すべては楽しく生きるために。仕事もプライベートも、「パーフェクトを目指さない」生き方。
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ryomiyagi

2021/07/07

©槇村さとる

 

料理に使うのは「今の自分の食欲&体力にマッチした軽くて小さな鍋だけ」「自分が心底欲しいと思った服は、いくら高くてもその場で買う」「ストレスで肌が荒れてしまうので、些細なことでパートナーとケンカはしない」「仕事も家事もパーフェクトを目指すのは40代まで」いくつものトライ&エラーを繰りかえし、無理も無茶も経験してきた50代は人生の楽しみ方もよく知っている。本書は、漫画家・槇村さとるが50代の日々をユーモラスに綴った一冊。

 

あれもこれもと頑張りすぎていたせいか、心身ともにつまずいていた55歳のころ、著者は「あきらめる」ことに目覚めていく。あきらめる、というのは頑張り過ぎないということ。時間的にも精神的にもゆとりのある生活にシフトするということだ。50代はあれもこれもと全力で頑張れるほどもう若くない。自分をラクにするため、要らないものはどんどん捨てていこう。目指すのは、これからの自分の人生をハッピーにする生き方だ。

 

「仕事もプライベートもパーフェクトは目指さない。今までできていたことができなくなっても気にしない。苦手なこと、嫌いなことは人に任せてしまえばOK――そんなふうに肩の力を抜いて考えて、今の自分が心底夢中になれるものだけに集中して力を注いでいくような生き方に変えました。」

 

その一方で、若さや体力を失っていく年齢だからこそ何かに夢中になったり、新しいことにチャレンジしたりするのが大切だとも語る。たとえば、ポスト更年期でどん底まで落ちた体力を取り戻すため、著者は自宅近所にあるカーブスへの入会を決めた。それにしても、夢中になってからの情熱がすごい。「エネルギッシュに動ける肉体」を目指して、カーブスに1年間に220日も通っているのだから。(※コロナ前の話です。以下同じ)

 

軽い筋トレも欠かさない。それに加えて7㎝のヒールを履き、華やかなドレスを身に付けて、イケメンの先生にリードされながらの社交ダンスのレッスンを週4日。「一週間のうち3日間漫画を描いて、4日はダンスのレッスンやジムに通う」日々はハードに思えるが、著者にはぴったりだったようだ。そして、ストレスをため込んで胃潰瘍やウツを繰りかえさないように仕事の量も減らした。すべては、毎日を楽しく生きていくためである。

 

社交ダンスを始めたのは59歳のとき。子どものころからダンスに惹かれ続けてきた著者は、「もはや残された時間は限られている。生きているうちに、やっぱり自分自身で踊らなきゃ!」と思い立ち、レッスンに通い始める。先生にお姫様のように扱われると失われつつある女性ホルモンが再び湧き上がり、細胞に効いているのがわかるのだという。

 

自分に課していたハードルを下げて、日々の生活を楽しむ余裕をもつこと。自分の本当の欲望を知るということ。大切なことは大切にし、好きなものには熱中する。シンプルで潔い生き方は、50代からの人生がまだまだ可能性に満ちていることを教えてくれる。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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