BW_machida
2020/10/23
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2020/10/23
脳の機能は老化と共に衰えるもの、それは避けようのないことです。
しかし、室温が脳機能に影響を与えるとしたら——――。
慶応義塾大学の伊香賀俊治(いかが・としはる)教授率いる研究チームが40代から80代までの約150人の脳を特殊なMRIで調べると、「寒い家に住む人」は「暖かい家に住む人」と比べて、脳神経の質が低下する傾向が見られたのです。
研究チームは、高知県梼原町(ゆすはらちょう)で「住まいと健康」に関する大規模な調査を行ってきました。梼原町は、高齢者が町民の40%を占め、“日本の2050年の姿”と言われる超高齢社会です。この地での調査で、「暖かい家」に住むグループは、高齢にもかかわらず、脳機能が2年前と同等に維持されていた一方、「寒い家」に住むグループは、たった2年で脳機能の低下が認められました。
それでは、「寒い家」のどこがそんなに悪いのでしょうか?
「寒い家」では、人は自然と防寒のために服を着こみます。
私の親戚のおばさんも冬にはいつも半纏に首巻をしてだるまのように着ぶくれていたものです。
こうした「着こむこと」が脳の健康のためには悪影響だと、脳神経外科を専門とする内田泰史(うちだ・やすふみ)医師は言います。「手足の筋肉も使わないと衰えますが、脳も同様です」。着こむことで動きにくくなると、運動量は下がります。すると、筋肉量や脳を衰えさせるのだそうです。
反対に、「暖かい家」にいると、背筋が伸び、動きやすい姿勢になり、それによってよく動くことで筋力が鍛えられ、脳の前頭前野の部分もそうした活動によって活発になるのです。
日本人はとかく、厳しい環境でも我慢していることが美しい姿と考える傾向があります。
しかし、その我慢が脳の機能を低下させるのです。
梼原町での調査では、室温が5度暖かいと、脳神経は10歳若くなることが分かっています。「脳のストレスを減らすことで脳神経を若くし、認知症予防にもつながる」と、内田医師も断言します。
脳をダメにせず「生涯現役」を目指すならば、「寒い家」で我慢するよりも、「暖かい家」での体に負荷をかけない暮らし方が重要なのです。
※本稿は、笹井恵理子『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)の一部を再編集したものです
文/藤澤緑彩
『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』光文社
笹井恵理子/著
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