日本の「少子化対策失敗」の理由 政府が見る女性像と、現状の間に横たわる溝
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ryomiyagi

2020/10/21

1990年の「1.57ショック」から30年間、出生率が低迷し続ける日本。最新の2019年度のデータでは、出生数が86.5万人と過去最少、死亡数が138.1万人と戦後最多を記録し、記録上初めて人口の自然減少数が50万人を超えた。なぜ日本の少子化はこれほどまでに進行してしまったのだろうか?

 

※本稿は、山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

 

政策担当者は「誰の声」を聞いてきたのか?

 

私は、日本の少子化対策と言われるものが、事実上失敗に終わっているのは、未婚者の心に寄り添った調査、分析、政策提言ができていなかったからではないかと考えている。

 

つまりは、政策担当者(および、マスメディアも含む)は、未婚者の「生の声」を聞くことを怠っていたのではないだろうか。正確に言えば、一部の人の意識や態度を、多数派の意識であると勘違いしていたからなのではないだろうか。

 

たとえば、若年女性であれば、一部のキャリア女性(大卒、大都市、大企業正社員か正規公務員)の状況を前提とし、非大卒、地方在住、中小企業勤務、もしくは非正規雇用女性の声を聞いてこなかったのではないだろうか。

 

たしかに、政治家、官僚、企業幹部、マスコミ、そして研究者の周りにいる若年女性の大多数は、大卒(大学院卒も含む)、大都市居住、大企業の正社員か正規公務員、中には成功したフリーランス、起業家もいるだろう。ちなみに、私の友だちや知り合い、仕事で接する人の大部分がそうであり、勤務先の大学の卒業生も、多くが大企業の正社員、公務員、教員として就職し、大都市部に居住している。

 

しかし、上昇しているとはいえ、近年の大学進学率は約5割である(2018年、四年制53・3%、短大含む57・9%)。将来的に、6割、7割に上昇するとは考えにくい。

 

ちなみに2001年に18歳だった人の四年制大学進学率(今の37歳前後の人)は、39・9%(男性46・9%、女性32・7%)であった。つまり、2000年代に出産、子育て期にあった女性の約3分の2は、非四大卒、多くは短大卒や高卒なのである。そして、吉川徹・大阪大学教授が分析しているように、大卒者と非大卒者の意識や行動は、大きく異なっている(吉川徹『日本の分断』光文社新書、2018年)。

 

また、四大卒であっても、正社員で大都市部居住とは限らない。大卒女性は卒業時には正社員として就職しても、数年で離職して、派遣などに働き方を変えるケースが多い。私の大学の卒業生も、男性はまだ正社員定着率は高いが、女性は転職を経験したり、非正規雇用になったものも多く、専業主婦になったものもいる。

 

たとえば、石井まこと(他編)『地方に生きる若者たち』(旬報社、2017年)には、非正規雇用の四大卒女子の声が多く採られている。実際、若年未婚女性の約半数は非正規雇用者なのである。

 

「女性躍進」と言うが

 

つまり、日本社会全体の出生率というマクロな数字を動かすのは、「大卒かつ大都市居住者かつ大企業正社員か公務員」というキャリア女性ではない。「大卒でなかったり、地方在住だったり、中小企業勤務や非正規雇用者」の女性の人数の方が圧倒的に多いのだ。

 

もちろん、キャリア女性が出産、子育てしやすい環境を整えることは大事である。両立対策は、男女平等、そして、女性活躍、日本経済の視点からは必要である。

 

ただ、それが、マクロな出生率に与える効果は限定的である。

 

これは、現行の安倍内閣(執筆当時)の女性活躍推進政策にも言えると思う。

 

高学歴で大都市の大企業に勤める女性がトップ・リーダーになれる環境を整えることは重要である。ただ、地方で中小企業にパートで勤める非大卒の女性にとっては、「雲の上の話」に聞こえてしまう。非キャリアの女性の働く環境を少しでもよくすることが必要なのだ。

 

地方にいる非キャリア女性の活躍によって、地方経済の活性化、ひいては、日本経済全体の底上げをすることが、本当の意味での女性の活躍推進なのではないかと痛感している。私は、内閣府男女共同参画会議専門委員として、この点について、口をすっぱくして述べているのだが……。

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山田 昌弘

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