ryomiyagi
2023/03/09
ryomiyagi
2023/03/09
新型コロナウイルスと、作品世界の中でどう向き合うか。
社会が一変した二〇二〇年以来、知り合いの作家や編集者との間で、このことがよく話題に上った。二〇一九年以前を舞台にする? パラレルワールドと割り切ってウイルスと無縁の世界を描く? 作中であえてマスクや消毒用アルコールといった感染対策の描写を避ける?
私も迷った。でも結局、正面から取っ組み合うことにした。私たちは当たり前のように今を生きているけれど、その“今”は常に移り変わっていて、私たち自身ですら一年や二年前の状況を簡単に忘れ去ってしまう。単純に、それが嫌だったのだ。忘れてやるもんか。絶対に。
そんなわけで、コロナ禍を舞台に物語を書くのは、一昨年刊行の『トリカゴ』(東京創元社)、昨年刊行の『君といた日の続き』(新潮社)に続き、これで三作目だ。だが明確にコロナを作品のテーマに据えたのは本作が初めてである。市役所に設けられた相談室に心の不調を抱えた人々が訪れる、という設定は、コロナ禍で生活を送る中で自然と思いついた。
この三年で、二回の出産を経験した。入院中は家族との面会が一切禁止だった。三歳になったばかりの娘は、自分なりのお洒落なコーディネートを考えて披露するのが好きなのだが、ワンピースや帽子、リュックに加えて、マスクも必ず装着する。外出先で消毒用アルコールを見ると真っ先にプッシュし、私たち両親にも促してくる。そんな彼女は、日々お世話になっている大好きな保育士さんたちの素顔を、一度も見たことがない。
なんだかな、と思う。みんな似たようなことを感じているのだろうな、とも思う。せめて私にできるのは、そんな閉塞感を逆手に取って、面白い物語を生み出すことくらいだ。本作はミステリー。正真正銘、エンターテインメントである。
そうやって光を見出したいのは、私自身なのかもしれない。
『答えは市役所3階に 2020心の相談室』
辻堂ゆめ/著
【あらすじ】
コロナ禍で、ひとりで苦しんでいませんか? 市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれるのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。
つじどう・ゆめ
2015年、第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し、『いなくなった私へ』でデビュー。22年、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。他の著作に『あの日の交換日記』『十の輪をくぐる』など。
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