『彼女はひとり闇の中』著者新刊エッセイ 天祢涼
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ryomiyagi

2023/03/10

そんなこともできないのか、作者のくせに!

 

本作は、幼なじみが殺された事件を解決しようとする女子大生と、そうはさせじとする犯人の攻防を描いた倒叙形式のミステリーである(少なくとも書いた本人はそう思っている)。探偵役は早々に犯人に目星をつけるが、幼なじみが殺された理由はまるで見当がつかない。「事件はなぜ起こったのか?」が謎解きの焦点になる。

 

私は自分が書く登場人物のうち、犯人(ここでは殺人犯とする)にはあまり感情移入しないタイプである。神社を舞台にしたミステリーを書いているときは「神職として生きるのもありかも」と迷ってしまうくらい雰囲気に流されやすいので、犯人に感情移入したら事件を起こす……は大袈裟にしても、人様に本気で殺意を抱きかねない。ゆえに犯人を書くときは、無意識のうちに距離を置いているのだと思う。

 

しかし本作の犯人にかぎっては、「ありえたかもしれないし、この先ありえるかもしれない自分」を思い浮かべて書いた。

 

当初は違ったが、執筆が終盤に差しかかったところで、犯人から自身の設定についてだめ出しをされたのだ。

 

—自分が殺人に走らざるをえなかった経緯について、もっと真剣に考えてほしい。そんなこともできないのか、作者のくせに!

 

この声が聞こえてから、犯人の立場になるため「ありえたかもしれない自分」「この先ありえるかもしれない自分」をいくつも思い描き、それをもとに設定を大幅に変更。以降は犯人に感情移入するどころか一体化し、普段の三倍近い速度で一気に最後まで書き上げた。独りよがりになったのではという懸念もあったが、発売前に読んだ人からは犯人に共感する声を多数いただいている(殺人という行為に共感する声はありません、念のため)。

 

果たして、あなたはどう思うだろうか? ぜひ本作を読んで、確かめていただきたい。

 

『彼女はひとり闇の中』
天祢涼/著

 

【あらすじ】
横浜・日吉に住む千弦は昨夜「相談したいことがある」とLINEを送ってきた幼なじみの玲奈が殺されたことを知る。千弦は真相をさぐろうと決意するが—。凄絶な孤独が引き起こした悲劇の結末とは。

 

あまね・りょう
1978年生まれ。神社ラブコメミステリ「境内ではお静かに」シリーズや『希望が死んだ夜に』などの社会派本格ミステリ「仲田」シリーズで好評を得ている。

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