akane
2019/07/03
akane
2019/07/03
太陽表面でのいろいろな現象が社会に影響を与えることに気づかれて以来、宇宙の物理を明らかにする天文学と並んで、太陽の影響を見極めてその対策に役立てようという研究が進められています。特に最近では「宇宙天気予報」ということで、各国で研究が盛んになってきています。
日本では、もともと電波通信の研究を行っていて、太陽活動の影響を把握することも重要な仕事であった電波研究所が、通信にとどまらない太陽の社会的影響まで視野に入れて「宇宙天気予報」の研究を始め、現在、情報通信研究機構として予報を行っています。
アメリカでは、2008年にすでに全米科学アカデミーが「重大宇宙天気現象」という文書を出して、宇宙天気の現代社会での重要性を分析・報告しています。
さらに2015年にはホワイトハウスから、宇宙天気の問題に対応していく方針を示す文書も出されました。これは、宇宙天気が国のトップレベルでの関心事となっていることを示しています。
太陽嵐が脅威になるのはどの国でも同じなので、多くの国で宇宙天気の予報が行われていて、そのための研究がいわゆる天文学としての太陽の研究と密接に協力しながら行われています。手の届かない対象を眺めている浮世離れした学問と思われがちな天文学ですが、現代文明のもとでは、天体は必ずしも手の届かないものではありません。
宇宙天気の研究や予報はたいてい研究所や大学が行っていて、公的に進められているものという印象を持たれるかもしれません。ところが、太陽嵐の社会への影響・被害の可能性が知られてくると、今では保険会社が宇宙天気をビジネスとしてとらえ、その脅威をより経済的な観点から分析しています。
直接、一般市民が太陽嵐に打たれるわけではなく、インフラの被害を通して影響を受けるので分かりにくいかもしれませんが、すでに関連業界では気象と同じく自然のリスク要因として扱われているわけです。
宇宙天気というと、その現代の社会的影響の観点からもっぱら地球への影響が話題になってきましたが、今ではさらに未来を見据えた、発展した宇宙天気研究が注目されています。
太陽嵐は惑星間空間のどこへでも飛んで行くので、たまたま地球に来なくても他の惑星に大きな影響を与える場合もあります。例えば、「火星に太陽嵐が来たらどうなるか」という研究も進められています。また、太陽より激しい黒点・フレア活動を起こす恒星も多くあり、そのような星での宇宙天気現象がどのようなものか研究するのも、宇宙天気研究の新たな可能性です。
火星はもとより他の恒星の話など、それこそ手の届かないところの話と思われるかもしれません。しかし、惑星探査機が太陽嵐の影響を受けているのに加え、かつては単なるSFだった火星への有人飛行は現在まじめにその可能性が検討されていて、現在研究していることは、将来の火星探検の中で考慮すべき危険となり得る太陽嵐の影響を知ることにつながります。
また近年、ケプラー衛星の活躍などで、太陽以外の恒星の周りを回る惑星が何千個も発見されていて、地球に近い温度の惑星、つまり生命がいる可能性が考えられる惑星も見つかり始めています。
たとえば太陽より激しい活動をしている恒星の周囲の惑星の生命にとっての惑星間プラズマ環境はどのようなものかを研究するのは、生命の存在条件を研究する上で有用です。
同時に、今より活発だった太陽活動のもとにあった太古の地球において、生命が進化してきた環境がどのようなものであったのか、その手がかりを得ることもできます。
地球に届く太陽嵐の研究もまだ発展途上です。現在、太陽面爆発の観測はかなり進んできていて、爆発が起こったことや、その後でプラズマが地球に飛んで来そうかどうかは、かなり把握できるようになっています。太陽面爆発が起こってからプラズマが地球に到達するまで2~3日かかることが多いので、危なそうな現象がとらえられたら直ちに警報を出し、嵐に備えてもらおうというわけです。
しかし、これでは太陽フレアで発生する強烈なX線(フレア発生が見えた時にはすでに地球に届いている)が起こす電離層の現象や、高エネルギー粒子の影響には備えられませんし、またプラズマの到達への対策にしても短い準備期間しか取れません。
そこで、現在盛んに研究が行われているのが、黒点やその周囲の磁場の様子を見て、フレアが起こりそうかどうかを予想することです。
物理的に先の現象を予測する、経験的な予測を試みる、いろいろな情報を人工知能(AI)に与えてフレア発生との関係を学習させて予測するなどの様々な試みが行われています。
今でも宇宙天気現象の様子の予報は行われているものの、十分な実用段階に至るにはまだ課題は残っています。
しかし、今後は宇宙天気研究は進み、天気予報のように広く予報が活用されるようになるでしょう。
※本稿は、花岡庸一郎『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.