これで書けなきゃ、お手上げ 『書くのがしんどい』

高井浩章 経済記者

『書くのがしんどい』PHP研究所
竹村俊助/著

 

 

書名だけでは、ベストセラー『読みたいことを、書けばいい。』の著者、田中泰延さんがこぼす愚痴のようだ。田中さんはあちこちで「書くのは苦しい」と発言している。

 

本書はそうした泣き言ではなく、「そんなあなたが書けちゃうんです!」という帯の文句を含めてメッセージが完結する、「これから書く人」に向けたガイドブックだ。

 

文章術を説く本は何冊か目を通しているが、本書はなかでも最も親切な作りだと感じた。同時に最も「詰め寄り」がキツい本でもある。「これで書けないはずはない」と、どんどん逃げ道がふさがれていくのだ。

 

まず、なぜ人が「書くこと」から逃げるのか、その心理を解き明かされる。

 

次に示すのは「分かりやすい文章」を書くノウハウ。この部分は、私が意識的に、あるいは無意識にやっている手法が手際よくまとまっていて、膝を打つ思いがした。

 

次に「書いても読まれない辛さ」と向き合い、それを乗り越えて多くの読者に届ける手法に進み、「商品としての文章」のブラッシュアップの具体例、継続して書くための習慣化とSNS戦略まで深掘りしていく。

 

そして最後に「書くこと」がいかにキャリアや人生において決定的であり得るか、「今の時代、書かなきゃ、損」と説かれる。

 

スルスルと読みやすい文章と構成も手伝って、読み手はあっという間に「とにかく、書け」と追いつめられる。

 

記者を四半世紀やってきた者として、あるいはペンネームで本やコラム(この書評もその1つ)、noteを書いている身として言えば、本書のノウハウを実践すれば「書き手の入り口」までは確実に立てる。ツイッターやnoteの活用法を含めて実用性は高い。

 

文学・創作志向が強い人はマーケティングやノウハウの色が濃すぎると感じるかもしれないが、そうした人はそもそも書くこと自体にハードルは感じていないだろう。 

 

個人的に興味深かったのは、前述の『読みたいことを、書けばいい。』との共通点だった。

 

ともに、よく読むと「『書くこと』に自覚的であれ」という厳しさがひそみ、 「太陽を偽装した北風」といった趣がある。
「書けば、人生変わる」という背中の押し方も共通する。これは、自分の経験に照らしても「その通り」と同意する。

 

「書いてみようか」と迷っている人、一読をおすすめします。

 

『書くのがしんどい』PHP研究所
竹村俊助/著

この記事を書いた人

高井浩章

-takai-hiroaki-

経済記者

1972年生まれ、愛知県出身。経済記者・デスクとして20年超の経験がある。2016年春から2年、ロンドンに駐在。現在は都内在住。三姉妹の父親で、デビュー作「おカネの教室」は、娘に向けて7年にわたって家庭内連載した小説を改稿したもの。趣味はLEGOとビリヤード。noteで「おカネの教室」の創作秘話や新潮社フォーサイトのマンガコラム連載を無料公開中。

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