2022/04/18
藤代冥砂 写真家・作家
『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』光文社
イアン・レズリー/著 橋本篤史/訳
タイトルにあるコンフリクテッドとは、衝突・対立・葛藤を抱えた状態を指す。わたしたちの日常生活では、他者とのコミュニケーションにおいて、コンフリクテッドに陥ることは珍しいことではない。
それは仕事中のケースに限らず、友人間、家庭内の個人的な時間でもあることだし、SNSなどを通して、見ず知らずの他人との間にも、コンフリクテッドな状態になってしまうことがある。
程度の差はあれど、どうやら、人は人と交わる時、必ずと言っていいほど、衝突・対立、そして葛藤を抱えてしまうようだ。国民性、地域性、時代性などにもよって、コンフリクテッドへの対処は様々だが、日本人的な感覚からすれば、衝突や対立をなるべく避け、穏健に妥協点に至ることが、大人に求められる振る舞いで、それを身に付けていない人は、集団からは疎んじられるか、集団から距離を積極的に取ることが求められるポジション、例えばトップに立つ人材を目指すかのどちらかに分類されるだろう。
対立や衝突は、感情的な優劣の争いに発展することが多く、その後味の悪さと天秤にかけたら、出来たら避けたいものだが、気づくと争っていたりする。本書は、こういった生まれいづる争いをただ否定するのではなく、むしろ、関係や人間性の成長へと導いていこうとする技術書だ。
これは負のエネルギーを正のエネルギーへと転換するという、逆転の発想であり、数々の興味深いエピソードを提示しつつ丁寧に紐解いていく流れは、ハードなテーマなのに、喉越し良く腹へと落ちていく感じがした。
著者は、対立や衝突を避けずに、それに真っ向から取り組む技術を並べ、段階をしっかりクリアしていくことで、相手との信頼を築くことをゴールとしている。平たく言えば、本気で喧嘩をした者たちが、親友になったりするようなものだ。理解できなかった何かを、理解できる様になったという点では、明確に人間的な成長がもたらされるだろうし、交渉力、コミュニケーション能力も、けっして楽しくはない時間を通して学び得ることになるだろう。
だが、闇雲に場当たり的に衝突や争いに身を投じていては、消耗が激しい。そこで必要なのが、やはり技術なのだ。登山家が、綿密な行程に乗っ取って、山を攻めるのと同様に、不要な衝突と消耗は、当然避けるべきだ。
著者は、そのノウハウを「生産的な議論のための10の法則」としてまとめている。これらは、うまく対立するための必須科目であり、ひとつを例に挙げるなら、「自分の変わっているところに気づく」というのがある。
思えば、対立というのは、相手が自分と違うことであり、どっちが正しいか、どっちが強いかということにむきになってしまいがちだ。そこで、いやいや、変なのは自分だよ、と視点を強制転換することで、議論の裾野が大きく広がる。
これらの10の法則は、ひとつひとつが、なるほど、と思わされるのだが、全てを完遂できる人というのは、もはや人間ができていて、対立などなくなるだろうなという気もした。だが、ゴールがある、見取り図がある、というだけで、対立・衝突という場面が訪れた時は、かなり楽に対応できることは間違いない。10のうちの半分でも達成できたら、生きることがかなり簡単になるのだろう、という楽しい予感も得られた。
対立・衝突を、闇雲に避けるのではなく、それぞれの成長のチャンスの場として、とことん味わい尽くす。それを繰り返していくうちに、良き人になれる。論破することを目指すのではなく、上手に対立して、双方が勝者になるためのガイドブック。シンプルだけど、素敵なベクトルだと思う。
『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』光文社
イアン・レズリー/著 橋本篤史/訳