ラジオ講座のレジェンドが教える英語の現在地|『英語の新常識』杉田敏、集英社インターナショナル

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『英語の新常識』集英社インターナショナル
杉田敏/著

 

NHKラジオで長年ビジネス英語講師を務めた杉田敏氏が、英語をとりまく新しいトレンドや考え方について解説した。日本人は英語への関心が強い割に、実力が伴わないと指摘されてきたが、ラジオ講座を通じて英語教育に携わってきた著者は、まず英語学習についての心構えを説く。それは正直、率直かつ厳しいものである。

 

英語を使って何をしたいのかという明確な目標を持つことが重要で、そのために努力を惜しんではならないという。一言でいえば、努力をしないで英語を身につけようなどとは思わないように、という基本姿勢だ。それにはお金と時間をかける必要がある。時間がないというのは理由にならず、時間は万人に平等であり、本当に必要であれば時間は作れるとシビアに自覚を促す。

 

著者の、地道な勉強なくして成長はない、という主張はきわめてまっとうで、素直に納得できるものである。お金がない場合はラジオ講座を活用すればよく、さる高名なノーベル賞学者も、著者のラジオ講座で地道な勉強を重ねていたエピソードが紹介される。

 

さらに杉田氏が強調するのは語彙力の強化である。日本では高校までに4000~5000語の単語を教わるとされるが、仕事で英語を使うのであれば少なくとも1万語は必要ではないかと指摘する。「限られた語数でも意思疎通は可能」という考え方や風潮が一部にあるが、カタコト英語に毛の生えた会話ならともかく、大人でしっかりした言葉による話ができないと、教養のある人とは認めてもらえない。

 

そのためには自分の語彙のニーズをはっきりと把握し、生活や仕事の分野で必要な用語の数を増やすのが重要だと説く。著者自身にも見慣れない英語表現がたまにあり、そうした時は映像などと一緒に覚えると忘れないというヒントも示される。

 

本書に教えられるのは、英語の最新トレンドである。言葉は生き物であり、それは日本語でも同じだが、英語の場合、中学や高校の教科書で習った内容や概念が時を経て大きく変化しているものも多い。

 

たとえば指でつくるOKのサインはこれまで「大丈夫、問題ない」という意味とされてきたが、近年はその意味が違ってきているという。なぜなら、「OとK」が「WとP」に見えるとされ、これが「white power の秘密のシンボル」を意味し、白人優位主義の象徴として人種差別や少数民族に対する「憎悪のシンボル」として使う過激主義者が現れてきたからだ。さらにジェンダー中立的な「Mx.」という敬称は、英国では2013年以降、公的書類やパスポートなどに使われている。

 

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で新たに生まれた言葉も多く、頻繁にメディアに登場するようになった言葉として「social distancing」があげられる。「外部と遮断された状態」という意味での「bubble」という言葉も広く使われるようになった。これは東京や北京の夏と冬の五輪大会をめぐる報道などでよく使われていたため、ご記憶の方も多いだろう。このほかネットで使われる略語の使用や、スペルの簡略化なども進んでいるという。

 

英語は十分気がつかないうちに大きな変化が起こってくる言語である。著者は日々、最新の英語に接しているがゆえに、時代の流れに応じて言葉が変化してゆく様子を鋭敏にキャッチしており、その蓄積が本書に反映されている。英語をとりまく「現在地」を分かりやすく解説してくれる希有な啓蒙書である。

 


『英語の新常識』集英社インターナショナル
杉田敏/著

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ビジネス・経済分野を中心にジャーナリスト活動を続けるかたわら、ライフワークとして書評執筆に取り組んでいる。英国の駐在経験で人生と視野が大きく広がった。政治・経済・国際分野のほか、メディア、音楽などにも関心があり、英書翻訳も手がける。

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