akane
2019/05/28
akane
2019/05/28
いざ開けてみると、別段変わったところもない小部屋があった。奥のほうに人の気配がする。
「こんにちは」
日本語で声をかけると人が出てくる。老婆と表現して差し支えないしわくちゃな女性が出てきた。彼女は英語が話せないようで、こちらが外国人であることがわかると拒絶しているような感じで追い出しにかかる。抵抗しても仕方ないので、こちらも外に出る。
この感じが何軒か続いた。よく見たら、難民グループの連中も追い出されているようだったので、自分だけではないという気持ちにはなったが、まったく相手にされないと、さすがにメンタルが挫けそうになった。それでも折れないのが、プロの取材者なのかもしれないと思う。
実際、諦めないと福音がもたらされることもあるのだ。あらためて入った売春宿で、英語が話せる中年女性と会ったのだ。
「日本人です。システムを教えてください」
このチャンスを逃すものかと、自分が客であると英語でアピールをした。ついでに日本人であるという意味のないアピールもした。これに効果があったのかわからないが、彼女は説明してくれた。
「うちは普通のプレイしかないよ。ノーマルセックス」
予想外のことを言われると理解ができない。
「それでいいですよ」
「あなたは、中国人?」
「日本人です」
「そうなんだね。最近、ムスリムの客が乱暴に女の子を扱うんだよ。アナルセックスを強要してくるんだ」
この言葉で腑に落ちた。先ほどの「ノーマル」の意味がわかったのだ。この女性にもう少し説明を聞いて、あらためて来るからと言いながら外に出た。
この日、ホテルに戻ってあらためてネットで検索すると、かなりの数の売春情報が出てきて、しかも私が訪れたエリアが売春街であることも確認できた。私が知った情報を整理すると、わずかな会話のなかに問題点が集約されていた。
イスラム教の性に関する部分を簡単にまとめると、基本的に婚前交渉は禁止である。宗派や地域によっては初夜のあとに血のついたシーツを親族に見せなければならないルールもあるのだという。それでも例外というのはあるもので、外国人を相手にした場合はカウントされないと解釈したり、なかにはアナルセックスはセックスに含めないという考え方もある(同性を相手にしたアナルセックスは禁止されている)。
つまり、「外国人だしアナルだし、婚前交渉だけどOKだよね」ということだ。
店の人の反応を見ていると、そういう考えの一部の人がこの売春街で問題を起こしたのかもしれない。その結果、難民、ムスリム、アナルセックスを結びつけてしまうことで、偏見が生まれてしまったように思う。
性に関する考えは、かなりヒステリックに広まっていくように思うのだ。
私が出会った難民たちは、大半は気のいい若者だった。彼ら全体が危険な考えを持っているとされるのは、非常に残念である。
ともあれ宗教によるルールというのは、他宗教の者にとって、よくわからないから危機感をふくらませる要素になりがちである。同じ構造は宗教だけでなく、習慣の違いから生み出されることもある。
私が出会ったなかで、衝撃を受けた性にまつわるいくつかの危険な考え方を紹介してみようと思う。
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