インテリアのプロが新居の家具を選ぶとき
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

誰しも、新居を建てるにあたり考えるのはインテリアのこと。予算やスペースに見合うのか、どんなスタイルがよくて、配置はどうしよう、それに家族構成も踏まえなければと、考慮すべきことは意外に多く、楽しいはずのインテリア計画も頭を抱えてしまいがちです。

 

浅川あやさんは、以前ライフスタイルショップに勤務していた経験があり、そこでは家具や内装の設計にも携わっていました。つまり、インテリアのプロなのです。そんなあやさんが、自身の新居にどんな計画を練っているのか、とても気になります。

 

あやさんのインテリアについての情報は今後も取材を重ねますが、今回は、主に住まいの素材についてと、中心となる家具選びについて聞いてみました。

 

「こだわりとしては、無垢の木材が好きなので、床材やテーブルなどはそうした材を選ぶことにしています。床は、家の中にいる間ずっと触れている部分ですから大切だと考え、国産杉の30㎜を使います。傷はつきやすいのですが、この厚みがあれば大丈夫だし、多孔質なので柔らかくて温かい。私は、多少傷がついても気にならないタイプで、それよりも触れたときの感触や、年月を経て風合いが増す素材であることを優先しました」

 

青山にあったライフスタイルショップに就職したのは、その会社が製作する家具に惚れ込んだことが理由だったと言う、あやさん。心惹かれた家具は70㎜の無垢材を使っていて、自身もダイニングテーブルとゲート形のカウンターを購入、今も愛用しています。

 

「私の、ものへの価値観を変えた出会いだったんですよ。カウンターなどをつくる場合、中身は合板で表面だけ突板を練りつけることが普通です。金額的な制約もありますし、見た目だけで言えば、無垢との違いはあまりありません。むしろスッキリ見えるのは突板の方かもしれない。でも、次の世代、そのまた次の世代へと受け継がれるようなものをつくるには、無垢材でないと無理だと思います。長きに渡っての使用に耐えうるもの、経年変化が魅力となるもの、そういったものが、気持ちのいい空間をつくると思っています」

 

生活という営みの浅い若かりし頃は、デザインを優先してものを選びがちです。あやさんもそうだったそうで、失敗もあったのだとか。その経験から、本物を見る目を養い、長く愛用できるものへの意識が高まっていきました。

 

また、欧州では当たり前でも、今までの日本では、桐箪笥などを除けば家具を受け継ぐ習慣はなかったと言えます。畳に座り、布団で眠る住居では、そう多くの家具を必要としなかった。そのことで、家具に関する考え方が成熟していないのかもしれません。しかし、生活スタイルは変わり、和室のない家も多い昨今では、家具の重要度は増しています。そして長く使うことは、結果としてゴミを減らすことにも繋がり、環境にも影響します。

 

「よく、子どもが小さくて汚すから、家具や生活用品は間に合わせで、という意見も聞きます。でも、感覚を育む子ども時代だからこそ、本物の良さを知って欲しいと思っています。私は子どもができてからも基本的に何も変わっていません。角のある家具は危ないとか、割れ物は置かないなど、そういうこともなく過ごしています。もの選びの基準も、自分がいいと思うものであるかどうかです」

 

あやさんが新居で使う家具は、ほぼ以前から使っていたものをそのまま持ち込む予定です。そして、今度のリビングで中心になるのは薪ストーブ。それは夫婦揃っての憧れでもあったのだそう。

 

「赤々と揺れる炎を見ながら、のんびり過ごす時間は至福であろうと憧れていたんです。薪ストーブは自然エネルギーであるし、ひとつで家中を暖められる効率の良さも魅力。それに、あの素朴さがインテリア的にも好きなんですよ。だから、今回のリビングの計画は薪ストーブから始めました」

 

薪ストーブは、スイッチひとつで暖められるものではなく、それなりに手間のかかる暖房器具です。けれど、その手間も含めた存在に、暮らしの楽しさを見出すのがあやさんらしいと感じます。自然エネルギーを積極的に取り入れるために、薪を燃料とするボイラーも導入する予定。

 

薪ストーブのある「タカショー」の店内ディスプレー
「タカショー」で店主の高橋隆造さんと談話する浅川夫妻。家の模型を見せながら相談中

 

「無理なくパーマカルチャー的な暮らしを継続していきたい。何が何でも自然エネルギーにこだわっているのではなく、あくまで自分に合っていて、楽しく使いこなせることを大切にしています」

 

薪ストーブのまわりでくつろぐことを考え、ソファは新調することが決定しています。あやさんが狙っているのは、北欧家具デザインの巨匠、ハンス J ウェグナーのデイベッド。

 

「ソファというよりベッド寄りの製品で、ゴロゴロするときにフカフカし過ぎないのがいいなぁ、と。シンプルなデザインで軽やかな印象も好きな理由なんです。ユーズドのものを購入しようと考えていて、あれこれ物色しています」

 

そこで、ある日の日曜日、浅川さん一家と訪ねたのはユーズドの北欧家具専門店「talo」。ここはユーズドの製品をしっかりリペアして販売しているショップで、対応が丁寧であることにあやさんは信頼を寄せていました。

 

「talo」の店内。たくさんの北欧ユーズド家具が所狭しと積み上げられている

 

「ユーズドの魅力は、現在では手に入りにくい材を使っていることにあります。木の育て方からして違うんですね。100年かけた木を使ったものづくりが可能だった時代のものは、やはりクオリティが高い」

 

そう説明してくれたのは店主の山口太郎さん。あやさんはデイベッドのフレームがオーク材のものを選び、マットは新しく仕立ててもらうことに。他にも欲しい家具はあるようでしたが、今回は見送りました。

 

「インテリアは育てていくものだと思います。予算があるわけだし無理な計画は立てません。最初から全部揃っていなくていいんです」

 

インテリアのプロは、計画的に家づくりを進めることを楽しむのだと知りました。ないからダメではなく、ないことも楽しめる。そのスタンスがオリジナルなスタイルに繋がります。

 

デイベッドはハンスJウエグナーによるデザイン。とても人気がある
「talo」の店主、山口太郎さんからデイベッドの説明を受けている浅川さん

 

 

新居に導入する薪ストーブとボイラーを購入
「タカショー」
静岡県御殿場市永塚653-2
tel 0550-88-1888
http://gotenba-takasho.com/

 

ユーズドの北欧家具専門店
「talo」
神奈川県伊勢原市小稲葉2136-1
tel 0463-80-9700
https://www.talo.tv/

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を