パーティ文化の終わり【第24回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

ryomiyagi

2020/08/12

飲み会がなくなった今

 

人との交流の機会がどんどん失われていく昨今。夜の会食は、ここ数ヶ月で一回のみ。「会食クラスター」という言葉が出始めて、怖くなって遠ざかりました。

 

それ以前に誘いもなくなっていたのが現実です。たまに集まる友人からは、「フェイスシールドを人数分買っておくね」という連絡があったきり、音信が途絶えています。

 

コロナ以前はたまに飲み会の誘いをいただいていましたが、お酒の席が苦手なので、だいたい飲み会の後半はどのタイミングで帰ろうか、ということばかり考えていました。飲み会から早く帰る方法(荷物を少しずつ入り口近くに移動させる、とか、生ものを持ち歩いているのを理由に帰宅する、など)まで考案し、社交的な人に呆れられたり……。

 

でも、飲み会がほぼなくなった今思うと、貴重で有限な社交の時間だったと思います。

 

誘われるうちが花だった?

 

先日、大阪府が5人以上の宴会自粛を呼びかけていたのが話題になりました。

 

ということは定員4人までになり、たまに5人くらいで友達と集まっていたので、たぶんひとり切られるとしたら私かな……なんて寂しく考えたりしています。

 

毎日会食が入っていたというファッション関係の著名人の女性は「今までのスケジュールがおかしかった。1日4件くらい予定があったことも……」と半年前までの生活を振り返っていました。

 

「いつも何を諦めて何を選ぶのかを考えてた。1日2件パーティがある時もあって。イベントや会食の合間に仕事して。会食では『あーこれおいしい』とか不毛な会話をして疲れてた。ても今は夜の会食があっても月1〜2回だし、すごい良い感じで生活してる」

 

という話を聞いて、月1〜2回でもあるのがちょっと羨ましくも感じましたが、会食や飲み会は、もしかしたら多くの人が同調圧力で参加していたのかもしれないとも思いました。みんなが行くから行かなければならないと、欠席したら何を言われるかわからない、と……。

 

そんな乗り気じゃない会合も、誘われるうちが花でした。平和だった世の中を遠い目で思い起こしています。

 

他にも、このコーナーで書かせていただいた風習で、「女子会」「花見」「パーティ」などが激減しているという状況です。

 

パーティが消えた……

 

なくなった社交の場のうち、想像以上に寂しかったのが「パーティ」の風習。

 

週に一回ほどはファッション関係やコスメ関係のパーティ、新しくオープンするお店のレセプション、アートの展示オープニングなどのイベントがあった記憶です。

 

ニューオープンや新発売のコンテンツが持つポジティブなエネルギーを吸収したくて、わりと積極的に参加していました。ふらっと行って、知人に軽く挨拶して、無料のシャンパンなどを飲んで、おしゃれ音楽を聴いて帰る……ただそれだけですが、家にこもって仕事している身にとっては刺激と興奮が得られ、エネルギーの注入になっていた気がします。

 

もちろん楽しいことばかりではなく、セレブなフォトグラファーの知人に何度か呼びかけたのにスルーされたこと、すれ違った女性の服にシャンパンを少しこぼしてしまい数人の友人を連れてこられて囲まれて責められたこと、セレブ雑誌の編集者の知人に「なんでここにいるの?」と軽くディスられたこと、モデルの知人がメンズに囲まれていてとても話しかけられなかったこと、全然仲良くない人たちと一瞬集まってSNS用の記念写真を撮ったことなどが、走馬灯のようによぎります。

 

パーティでの薄ら苦い思い出も今となっては懐かしいです。パーティでしか会わない人たちもいて、例えば「日本のレッドカーペットを仕切っている」とか公言していたあやしい業界人風男性や、どのパーティでも見かけたアパレルのお店をやっている女性など。彼らは今、元気なのでしょうか……。

 

そして何より、インフルエンサーの方々はどうしているのか気になります。パーティ用にブランドの服をもらえたり、参加するだけで高額のギャラを授受していたという噂を聞きます。

 

しかし、今や大体的にパーティを行っていると知れたら、企業側も批判されてしまいます。企業がインフルエンサーを使うにしても、直接商品を送ることしかできなさそうです。パーティという稼ぎの場が減ってしまって、インフルエンサーの生活は成り立っているのか老婆心ながら心配してしまいます。

 

軽い衝撃

 

パーティでたまに遭遇していた、パーティフォトを撮影しているカメラマンの男性に「最近全然パーティないですよね」と言ったら、「そうですね。仕事もなくなりましたが、僕はあと数ヶ月は何もしなくても貯金だけで生きていけそうです」という話を聞いたのが、たしか4月頃でした。

 

そして7月頃、仕事で会ったそのカメラマンさんに「パーティまだないですよね」と聞いたら「ありますよ、最近」と、さらっと言われて軽い衝撃が走りました。

 

「それは……闇パーティですか?」
「いえ、ブランドが人数をしぼってパーティをやってます」
「えっ本当ですか」
 それ、呼ばれてないんですけど……。
「じゃあ、またどこかのパーティで」
「……」

 

新しい生活様式では、宴会でもパーティでも人を厳選することになっていくようです。選ばれる自信がないので、自分なりにパーティを疑似体験していきたいです。

 

ある時、丸ビルのおしゃれなレストランで女性たちが数人立っているのが見えて、もしかしてパーティが? と近付いたら、ただレジで支払う人の列でした。

 

ずっとパーティに行っていないから禁断症状でパーティと錯覚してしまったようです。音楽がかかっている洋服屋でひとり買物している時や、音楽を聴きながら電車に乗っている時など、パーティの10分の1くらいのテンションを得られることがわかりました。小さなパーティ感を積み重ねることでパーティ欲を満たすことができます。

 

取り戻したい、自然とのつながり

 

そして先日、仕事で久しぶりに出張し、自然の中で川や森を近くに感じることがありました。パーティやイベントがなくなっても、自然に目を向ければもっと壮大な森羅万象が繰り広げられている、そんなシンプルなことに気づかされました。

 

DJのかける人工的な音楽も良いけれど、今は川の流れや鳥のさえずりなどの自然音に癒され、慰められたいです。

 

人間はもっと自然と交流すべきだったかもしれません。

 

太古の人々はもっと自然と共に生きて、交信していたのだと思います。人間との交流が減った今、自然とのつながりを取り戻したいです。

 

今月の教訓
パーティがなくなって人とのつながりが減った代わりに、自然とつながることで心身が充電できる。

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を