恐山のロックンロール原始人が、一心不乱の謝肉祭を【第27回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

75位
『ファン・ハウス』ザ・ストゥージズ(1970年/Elektra/米)

Genre: Hard Rock, Proto-Punk, Garage Rock, Blues Rock
Fun House-The Stooges (1970) Elektra, UK
(RS 191 / NME 104) 310 + 397 = 707

 

 

Tracks:
M1: Down on the Street, M2: Loose, M3: T.V. Eye, M4: Dirt, M5:
1970 (a.k.a. “I Feel Alright”), M6: Fun House, M7: L.A. Blues

 

聴けばいまそこに、まさに「大暴れ」中の、獣のような奴らがいることがわかる。血か汗か、とにかくあらゆる体液が全身を濡らし、爬虫類のようにぬめりながら、目を光らせ、野獣のように唸り、または喉も裂けよと咆哮する奇怪な男は、のちに日本では「淫力魔人」との称号を与えられるシンガー、イギー・ポップだ。

 

八方破れのハード・ロックに乗せて、彼はこんな詞を歌う。
「主よ!/あー、ほー!/やめて!/あの猫見たか?/イェー、お前のことだ/彼女は俺を『TVの眼』で見たんだぜ』」(M3「T.V.アイ」)――この支離滅裂と出所不明の熱情こそが、ストゥージズだ。本作は後世のロッカーたち、とくにパンク・ロッカーに聖典としてあがめられることになる、伝説のセカンド・アルバムだ。

 

ストゥージズは「ガレージ・ロック」シーン出身のバンドだ。ガレージ・ロックとは、アメリカの60年代の一時期にあったサウンド・スタイルを指す。ビートルズらの影響のもと、10代の若者たちがこぞってバンドを組み、自宅の「ガレージ」で練習したときに生じてしまった、なにやら荒削りで、猛々しくも心を駆り立てる、エキサイティングなロックのモード――これが「変異」して、ストゥージズになった。

 

名作と賞される(しかし売れなかった)第1作を経て、彼らはよりヘヴィに、より「むき出し」になる。衝動という衝動すべてをさらけ出したかのような、異形のロックがここにある。前述のM3、そしてM5は、いったい幾度カヴァーされたことか。酩酊を誘う魔術的なギター・リフが連続する様は、原始人の宗教儀式みたいだ。豚の悲鳴のようなサックスを大きくフィーチャーしたM7など、フリー・ジャズ風味ですらある――が、そこにポップのシャウトが加わると、ジャズとはならない。殺気立った、狂気のブルースになる。これが、ストゥージズだ。

 

ちなみにストゥージズとは、20年代より映画やTV番組で繰り返し人気となったコメディ・グループ「The Three Stooges(日本では「三ばか大将」)」に由来している。ポップによると「ちゃんと本人に許可はとった」とのこと。また、ポップの、異様に体脂肪率が低い、細身なれども筋肉質の体躯は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の悪鬼兵オークの肉体モデルともなった。つまり、筋金入りの「知性ではなく野性」のロックが、ここにある。

 

次回は74位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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