第三十回 関取花『どすこいな日々』
関取花の 一冊読んでく?

BW_machida

2022/12/02

気づいたらもう12月、やっぱり一年って過ぎるのがとても早いですね。私は今年、1月からアルバムの制作を始めて、レコーディング、全国ツアーとなんやかんやとやっているうちに、いつの間にか季節が巡っていた感じです。みなさんの2022年はどんな年でしたか? 

 

そしてこの連載もあっという間に第30回目。月イチでの連載なので、2年半が過ぎたということになります。毎月みなさんからいただいたアンケートを元に、私が一冊の本を紹介していくという形で進めてきましたが、今読み返しても、我ながらどれも本当におすすめの本ばかりです。原稿を書きながら、今回はどんな本がいいだろうと考えるのは、私にとってとても幸せな時間でした。だいぶ前に読んだ本のワンシーンやタイトル、印象的だったセリフなど、ふと思い出すことはあっても、あらためてもう一度その本を読み返すことって、意外となかったりします。でもこの連載があることによって、もう一度じっくり読み返すことができました。当時読んでいた時の記憶と感動が蘇ると共に、今の自分だからこその発見もたくさんありました。

 

しかし残念なことに、この連載も今回で最終回となります。私としては、ライフワーク的に続けていきたいと思うくらい大好きなお仕事だったので、正直終わるのは寂しいです。みなさんのアンケートを読むのも毎月本当に楽しみでした。特にコロナ禍でライブがまったくできない時なんかは、この連載に何度も救われました。お客さんと直接対面することができず、なんだか心にポッカリ穴が空いたような気持ちになることも多く、もう忘れられてしまっているのではないか、私のところだけ時間が止まってしまっているのではないか、そんなことを思うことも多々ありました。でも、毎月届くみなさんからのアンケートや感想を読むたびに、「ちゃんと届いている」と思い前を向くことができました。

 

ある日、「なにか本に関する連載をやってみませんか?」と光文社の担当の方が連絡をくださり、その後直接会社に伺い打ち合わせをしたところから、この企画はスタートしました。その際、「ただおすすめの本を紹介していくのもいいけれど、どうせなら読者の方とコミュニケーションをとりながらの連載にしたい」ということを私の方から伝えさせていただきました。そしていろいろとアイデアを出し合い話し合った結果、毎回アンケートをとるという今の形になりました。こうして企画から一緒に考えさせていただける連載というのは、私自身はじめてでしたし、また、この先もなかなかない機会だと思います。今はもう当時の担当の方ではないのですが、あらためてこうして素敵な機会をいただけたこと、心から感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

 

そして、その時その担当の方が言ってくださった一言を、私はそっと胸に抱きしめながらこの連載を続けてきました。冗談だったのかもしれませんし、その場の流れだったかもわかりません。でも、私にとってはとても嬉しく、やる気の出る一言でした。

 

「最終的には、いつかこの連載をまとめた本が作れたら」

 

今でもあの時の、ピンと背筋が伸びて気合いの入った瞬間の、自分の熱い気持ちを忘れることはできません。あらためて過去の原稿を読み返すと、その気合いが空回りして、若干まわりくどくなっちゃっているなとか、なんか独りよがりな文章だなとか、もちろんいろいろ反省点もあるのですが、いきいきとしていてそれはそれでいいものが残せたな、とも思います。並々ならぬ気合いからか、どんどん文章が長くなっていっている感じとかも、ある意味私らしいです。結局本という形にすることはできませんでしたが、私にとってはそれと同じくらい愛しい、「一冊読んでく?」という作品ができたと思っています。本当にこの連載ができたことを誇りに思います。

 

前回、最終回に向けて最後のアンケートを募集させていただきました。

 

「あなたが関取花におすすめしたい一冊を教えてください。」

 

本当にたくさんの、そして今までで一番熱量の高いたくさんの回答をいただきました。すでに気になったうちの何冊かは書店で買ったり、店頭になかったものはネットで注文したりしました(明日も2冊ほど届く予定)。これでこの連載が終わっても、私とみなさんとの本を通したコミュニケーションを続けていくことができます。そう思うと、寂しさも紛れるってもんです。

 

最後にどの本を紹介するか、とても迷いました。もちろんみなさんのおすすめしてくれたものの中から一冊選んで、私がそれを紹介するという手もあったかもしれません。でも、どうしても最後にみなさんに紹介したい本があることを思い出しました。関取 花『どすこいな日々』です。

 


『どすこいな日々』晶文社(2020年)
関取花/著

 

てっきり発売タイミングですでに紹介していたと思っていたのですが、意外にも自分の本はまだ紹介しておりませんでした(笑)。だからって、なんか最終回に持ってくるのもいやらしい感じになっちゃうかなとも思ったのですが、私自身心から大好きな本なので、そこはどうかお許しください。

 

著者の関取花さんは、1990年生まれ、神奈川県出身のミュージシャンで……なんて話はもう今更いいと思うので、ガッツリ割愛します。

 

まず、本を開くと“そで”のところに、このようなことが書いてあります。

 

幼少期のエピソードから
大好きな本について、
音楽を生み出す際の苦労などの
よもやま話を時に抱腹絶倒、
時に哀愁漂わせ、
喜怒哀楽たっぷりの文章でつづる。
ついつい毎日開きたくなる、
生活用品のようなエッセイ集。

 

これは、出版社である晶文社の担当の方が考えてくれました。短いのにこの本をとてもよく表してくれていて、私もお気に入りの文章です。

 

実はこの時期、何社かの出版社さんから、「エッセイ本を出してみませんか」というお話をいただいておりました。当時は時々バラエティ番組などにも出させていただいていたので、たぶんそれをきっかけに私を知り、ブログなどを読んでお声がけくださったところも多かったのかなと思います。本当にありがたい話です。

 

その中で、なぜ晶文社さんからはじめてのエッセイ本を出したいと思ったかというと、まず、私が晶文社さんの出す本のファンだった、というのがありました。一時的に消費されるものではなく、長く愛され、何度でも読みたくなる、そんな本をたくさん出版されています。でもそれ以上に、担当の方がくださったメールに心を打たれたというのがありました。それは“そで”にもある通り、「関取さんとなら、生活用品のようなエッセイ集を作れると思うんです」という内容でした。

 

世の中には溢れるほどの本があります。電子書籍もありますし、インターネットでもたくさんの文章を読むことができます。次から次へと新しい情報が入ってくるので、一度読んだ本をもう一度読み返すということは、昔に比べて絶対的に減ったと思います。

 

でも、なんでか手元に置いておきたくなる。大きな格言もなければ、明日からの人生指南になるような内容でもないかもしれません。なのに、落ち込んだ時、やる気が出ない時、あるいはクスッとしたい時、なぜか何度でも手に取りたくなってしまう。あると便利で、なんか落ち着く、そんな日用品みたいな本を作ることは、私の夢でもありました。

 

そうしてできたこの『どすこいな日々』は、私がこれまでに書いてきたブログや連載、そして書き下ろしを何篇か加えて構成されています。「音楽とはうんこである」だの、「東京の美容院こわい」だの、「恋をした結果笠地蔵の絵本を読んだ」だの、くだらない話も満載ですが、歌詞が書けずに煮詰まっている時の様子や、反抗期の頃の話、家族とのエピソードなど、なかなかリアルで読み応えのある内容も結構入っております。なんと実は、その中のいくつかの話は、学校の受験問題(国語)に使っていただいたりもしているんですよ。

 

どれもお気に入りなのですが、せっかくなのでその中から、「出会いは書店で」という、本にまつわる話を少しだけ紹介させてください。

 

私は基本的に、本は書店で買います。ネット上でおすすめされて出てくる本もいいけれど、書店に行くとビビッとくる出会いがあるからです。装丁の美しさに惚れることもあるし、紙質が気になって思わず手を伸ばしたくなることもある。パラパラと立ち読みをしてみたら、飛び込んできた一行に心を見透かされたような気持ちになることもある。そう、その時の気持ちにピタッとフィットする本との出会いは、いつだって書店にあるのです。少なくとも私はそうです。

 

私はこれまで決して膨大な量の本を読んできたわけでもないし、ものすごく知識が豊富なわけでもなんでもない。でも本は好きだ。そして書店も好きだ。そこに行けば、新しい本との、そしてまだ知らない自分との、思わぬ出会いがある。

 

私にとって本というのは、自分の現在地を教えてくれる存在です。どんな本に心惹かれるか、どんな内容が胸に刺さるか。それによって、今自分の心が欲しているもの、足りないものがなにか、再確認することができます。当時はあんまりでも、5年後、6年後に読んだら号泣してしまった、そんな本もたくさんあります。読む時によって感じ方が違う、それが本のいいところだと思います。

 

私がこの「一冊読んでく?」の連載の中で紹介してきた本も、本当にどれも素晴らしい作品ばかりです。最近の本から昔の本まで、いろんなジャンルの本を紹介してきましたが、どれも色褪せない魅力があります。よかったら、どれでもいいので読んでみてください。どれから読んだらいいかわからないという方は、とりあえず『どすこいな日々』を読んでみてください。「こいつでも読めたんなら自分でも読めそうだ」と思えたりするかもしれません(笑)。そしてできれば、書店で買って読んでくれたら嬉しいです。きっと他にもたくさんの出会いがあるはずだから。

 

これは個人的な思いになりますが、出版業界と音楽業界は、どこか近しい部分があると感じています。そして、時代の流れの中でどう闘っていくか、いろんな意味で試される時期にきているとも思います。何年後か何十年後か、何百年後かはわかりませんが、C D や本という形はいずれなくなってしまうのかもしれません。ということはC Dショップも、書店も。でも、青春時代をC Dショップと書店で過ごした自分からすると、やっぱりなくなってほしくないと思うわけです。

 

ネットで自動的におすすめされる作品もいいけれど、自分で見つけることの喜びには代えられません。そういうモノには思い出が宿ります。だから人に勧めたくなります。「一冊読んでく?」って言いたくなります。そこから生まれるコミュニケーションがあります。出会いがあります。成長があります。豊かさがあります。だから本という形は、できるだけ長く残ってほしいと思うのです。だからって私に何ができるわけでもないですが、まあ何が言いたいかっていうと、要するに本屋へGO、本は最高、ってことです。(C Dもまた同じくです)

 

最後になりますが、ここまで読んでくださった読者の皆様、そしてこれまでアンケートに回答してくださったたくさんの皆様、光文社の担当の方々、毎回誤字脱字などをチェックしてくれたマネージャーさん、本当にありがとうございました。この連載を通して、私ももっと“本がすき”になりました。あ、書籍化のお話はいつまでもお待ちしておりますので、なにかあればいつでもご連絡ください。

 

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