akane
2018/10/15
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2018/10/15
櫻井義秀『霊と金――スピリチュアル・ビジネスの構造』(新潮新書)2009年
連載第3回で紹介した『「カルト宗教」取材したらこうだった』に続けて読んでいただきたいのが、『霊と金――スピリチュアル・ビジネスの構造』である。本書をご覧になれば、なぜ「スピリチュアル」を利用すれば「金儲け」ができるのか、逆に、なぜ「スピリチュアル」を信じる者は「救われない」のか、実感できるだろう。
著者の櫻井義秀氏は、1961年生まれ、北海道大学文学部卒業後、同大学大学院博士課程中退。現在は北海道大学教授。専門は宗教社会学で、『「カルト」を問い直す』(中公新書)や『カルト問題と公共性』(北海道大学出版局)など著書・論文も多数。
とくに櫻井氏が大学関係者の間で知られているのは、1992年から「大学のカルト対策」に積極的に取り組み、全国の大学のキャンパスが「カルトの勧誘」の場として利用されないように、幅広く注意を喚起し続けてきたためである。
「正体を隠して学生の勧誘を行う宗教団体」として指摘されているのが、「統一教会」・「摂理」・「親鸞会」・「顕正会」・「アレフ」・「ひかりの輪」など。大学祭で「無料心理鑑定」からカウンセリングを行い、教団に誘導する「幸福の科学」に対しても警告を発している。
これらの宗教団体は、学生に十分な情報を与えることなく頻繁に連絡し、考える余裕を与えないうちに飲食やプレゼントなどで攻勢をかけて、相手が断り難いような関係を築き上げる。そこで「偽装サークル」に誘い込んでから、徐々に宗教団体の教義を教え込み、洗脳するのである。この一連の「布教の方法」を、本書は「卑怯ではないか」と断罪する。
もし団体の信条が社会から笑われるような「トンデモ」ではなく、入信後にも無理な勧誘活動を強いるような組織でなければ、団体名と活動内容や会費を明記したパンフレットを堂々と学生に配布すればよい。しかし、そのような正当な手段では信者を獲得できないからこそ、彼らは「偽装」する。とくに近年は、地下に潜伏する傾向が強くなっている。
本書には、2008年の「癒しとスピリチュアルの大見本市」(スピリチュアル・コンベンション)の様子が描かれている。当時はテレビ番組「オーラの泉」の影響もあって空前の「スピリチュアル・ブーム」の渦中にあり、全国60都市で年間延べ10万人が参加したという。
その会場に登場したのは、次のような用語だった。「ヒーラー、チャンネラー、アロマテラピスト、リフレクソロジー、スローライフ、マクロビオティック、ボディーワーカー、サイキックヒーラー、気功、波動、代替療法、芸術家、環境NPO、地域通貨、スピリチュアルSHOP、占星術、易学、イルカ、天使、風水、自然食品、宇宙、コーチング、ハワイ、パワーストーン、ヨガ、オーラソーマ、ヒプノセラピー、スリーインワン、クリスタル、各種セラピー、ホメオパシー、フラワーエッセンス、ネイティブスピリット、ヒーリング等々」
これらの用語は、必ずしも「スピリチュアル」に直結するとは限らないが、一般通念とは異なる意味で用いられている。たとえば「波動」は量子力学の「波動方程式」の「波動」ではないし、「宇宙」も人工衛星が飛び交っている現実の「宇宙」ではない。明確な定義のできない曖昧な概念ばかりだが、オウム真理教が「超能力」をエサに信者を獲得したように、カルト集団が人を引き寄せるためには、実に便利なキーワードが並んでいる。
ここで注意してほしいのは、「スピリチュアル」を加えると簡単に「金儲け」ができることだ。スピリチュアル・コンベンションで、ある書家のブースに入った学生は、「自分の思いを心に描いて私の手を握りなさい」と言われた。しばらくして書家は、おもむろに「なぜベストを尽くさないのか」と色紙に書いて2500円で買わせたのだ! 普段は誰も買わないヘタな字の色紙が、スピリチュアルと組み合わせると、この値段に跳ね上がる。原価の安い石も「パワーストーン」と呼べば千倍で売れる。スピリチュアル業者の笑いは止まらないだろう。
信教の自由という概念の中身は、鰯の頭も信心だからどんな宗教でも尊重されねばならないということではない。他者の信教の自由を尊重することなく、手前勝手な宗教的理屈から卑劣で執拗な勧誘行為を行う団体に対しては決然たる態度を取るべきだろう。大学は学生に対する教育責任を負う。学生の健全な学びの機会を阻害する団体は批判されて然るべきだ。(P.214)
「カルト集団」と「金儲け」の実態を理解するために『霊と金――スピリチュアル・ビジネスの構造』は必読である!
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