akane
2018/10/10
akane
2018/10/10
この連載は、理想の暮らしを叶えるために、自分たちの力を最大限に使い家づくりを行っている家族の日々の記録です。
習慣のなかで生きる私たちにとって、どんな生き方をしたいかと、立ち止まり、その問いに真剣に向き合うことはなかなか難しいものです。仕事や家事や子育てや人づきあい、目まぐるしく過ぎる日常は、ほぼそうしたものとの格闘に費やされていきます。だけど、ホントに望んでいる人生とは何かが違うような気がする……。などと、もの思いに耽る夜も、皆さんあるのではないでしょうか。
ここに登場する浅川あやさんは、立ち止まって考えました。もっと自分らしく居られる場所に、家をつくろうと。家族と相談し、その夢でもある家づくりに向け動き出したのは数年前のこと。
「息子が通っていた保育園がパーマカルチャーを実践しているところで、その活動に触れるうちに親子共々大きな影響を受けたんです」
鎌倉で「日用美」という生活雑貨を扱う店を営んでいたあやさん。住まいの1階に店があるつくりでした。彼女は、自然との触れ合いを求めますが、住宅地である環境では、それは難しかったのです。
「幸せとは何か、豊かさとは何か、ちょっと大袈裟ですがそんなことを自問するようになりました」
移転を決めたのは鎌倉に住まい兼店舗を建てて9年、店を始めてまだ4年しか経っていないときのこと。一般的に考えると、手に入れた生活ベースに夢を膨らませている時期でしょう。でも、ここではない場所への憧れは、あやさんのなかで日増しに募っていったのです。
「子どもの育ちに影響する環境や、自分の価値観とのズレを無視できなかったんです。夫も、似た考え方をする人なので、移転についての相談は、わりとすんなり受け入れられました」
斯くして、浅川さん一家の新たな場所探しが始まります。条件は、海と山があって駅にも近く、住居と店舗以外に、庭や畑もつくれるゆったりとした敷地を確保できる場所。夫の真さんは会社勤めをしているから、駅から遠いところは現実的ではありません。しかし、そうした場所は、あるようで少ないのも事実。それに、生活をするのだから、今まで慣れ親しんだ都市型のショップも、さほど離れていない地域にあって欲しい。
家は人生を賭けた買いものでもあります。浅川さんたちの場合は2度目ですが、1度目の経験があるからこそ、軽はずみな妥協は後々影を落とすことになるのを知っている。だから、夫婦どちらかが少しでも納得できない物件はパスすることに決めていました。いろいろ物色を重ねるものの、これ、と言った物件には巡り会えない日々が過ぎていきました。
「夫の母方のお墓が箱根方面にあり、墓参に行った帰りにネットで見ていた物件が二宮にあることを思い出したんです。ちょっと寄ってみようか、くらいの軽い気持ちでしたが、土地を見た瞬間に自分たちの波長に合う気の流れの良さを感じ、ふたりして『ここ、いいね』と言っていました」
こうした出会いは、まさに縁があるということなのでしょう。森のように木々が繁る、高台の380坪の敷地に築80年の廃屋が残されており、宅地という状態とは言い難いものでしたが、ふたりには完成予想図が描けたのだと言います。直ぐさま不動産屋を訪ね、取得のための手続きに入りました。
あやさんから最初に二宮の土地を見せてもらったとき、正直ジャングルのようで、廃墟同然の洋館にも驚きました。だけど、不思議と大丈夫と思えたのです。私の隣で、キラキラとした笑顔で立っているあやさんが居て、雨降りの日でしたが、そこだけ陽が差しているように明るく見えました。私にも、新しい「日用美」が、その光のなかに見えた気がしました。
次回からは、家づくりに関するいろいろや、暮らしの楽しみ、あやさんの素敵に住まうアイディアなどを見せてもらいます。どうぞお楽しみに!
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