音楽愛に満ちたインディーズレーベル経営者の一代繁盛記

大杉信雄 アシストオン店主

『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』
角張渉/著 木村俊介(聞き手) リトルモア

 

カクバリズム、というインディーズレーベルをご存じだろうか。もしその名前を知らなくても、ceroや、二階堂和美やSAKEROCK、在日ファンク、キセル、スカート、といった所属ミュージシャンの名前はご存知かもしれない。2015年までは星野源が所属していたレーベルとしても知られる。

 

カクバリズムの所属アーティスト(公式サイトより)

 

わたし自身は音楽業界の仕組みに詳しい訳ではなく、単なる音楽リスナーとしてこれまでカクバリズムというレーベルを強く意識したことはなかった。ただ、所属ミュージシャンの名前をあらためて見直すと、これも好き、あれも良い、彼らも所属していたのかと驚いたくらいだ。

 

カクバリズムは2001年に、当時23歳だった角張渉(かくばりわたる)さんによって設立されたレーベルで、これまでの15年間の歩み、紆余曲折を語ったものが本書だ。設立までの経緯や、経営者である角張さんが何を考え、どんな姿勢で所属ミュージシャンたちと関わってきたかが細かく記されている。

 

本書を読み進めてゆくと、わたし自身も2000年に雑貨店を創業して、著者よりも13歳年上であったけれど、同じ渋谷という場所で、同じ時代の風景を感じられていて嬉しい。自分の一番好きなことを仕事にしてしまった者同士、もちろん個人的に面識の無い方ではあるが、同じビジネスの風景を見てきたのだな、という強い親しみを感じた。

 

私がアシストオンというお店を自力でやってみよう、と思った時に困ったのが、モデルにするようなお店が想定できなかったことだ。尊敬するお店とか、こんなふうなお店をやってみたい、とかいう憧れが自分にはない。そもそも「雑貨屋さん」そのものに強い思い入れもなかったから、こんなお店を自分でやってみたい、という想像が働かなかったし、始めるまでは雑貨業界に居たわけでもなかったのでイメージできるわけもなかったのだ。

 

ところが、売りたい!と思えるモノは最初から山ほどあった。これもやりたい、これも、これも、と考えてゆくと、およそ一つのターゲットやコンセプトでは括り切れない。そしたらそういった「場」としてのモデルの部分は空欄にしておけ、ビジネスモデルはある程度、保留にしておいたらどうか、と自分に言い聞かせておいた。それが良いのかどうかは知らない。そして「モノよりコト」という風潮には徹底的に反抗したい気持ちもあった。何言ってんだ、まずはモノだろうと。また、多店舗展開して「ビッグ」になるにしたがって「良いモノ」や「良い考え方」がこぼれ落ちてしまうなら、自分たちのビジネスのサイズはどうあるべきなのか。そうやって、良いモノを売る、売り続けるほうを選んで、小さなサイズを選んだ。

 

そんな感じで19年が経過したが、今でも自分のまわりを見まわしてみても、同じ感じのお店を見つけられないでいて、それは幸せなのか、それともものすごく不幸なことなのか、どちらなんだろう?とずっと考えていた。

 

そしたらこの本に出会って、これこれ、同じこと考えているよ!という感じになった。ここに書かれていることは音楽ビジネスの世界のことだが、会社経営への思い、経営者としての喜びと孤独、そんなものがページをめくるたびに出てきて、「キミ、俺も同じだよ!」と肩を叩いてあげたいような気持ちが溢れた。

 

まず音楽レーベルというものがあって所属ミュージシャンがいる。カクバリズムはそういうブランドイメージ先行型のレーベルではなくて、まずはミュージシャンがいて彼らの音楽がある、これを徹底して考えている音楽レーベルであることが本書を読み進めうちに分かってくる。そういった主催者、角張氏の考え方があるから私自身がこのレーベルをあまり意識しないでいれた。それぞれのミュージシャンの音楽だけを好きでいられたのだろうと気づく。

 

本書にはこういう話が出てくる。

 

いちばんに優先することを「音楽」にする。それによって、その次の段階で仕事として成り立たせるにはどうしたらいいかというアイデアも出てくる。というかアイデアを出すのが仕事。ぼくたちが食えてなかったら、このあとに新しい音源も出せないし、音源を向上させるための資金も出せなくなるよな、宣伝もできなくなるよなとか考えてしまう。でもそこにぶつかってもいい音楽をつくることだけを優先させる。ここで稼ぐことがいい音楽を作ることより上回ってはダメ。何々だからしょうがないって言い訳もダメ。お金はないと困る。それはみんなそう。だからよかったのかはわかりませんが、だからこそ良い音楽が生み出せるロケーションとしては最高というか、そういう場所でありたい。

 
ああ、同じなんだな、と思う。

 

『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』
角張渉/著 木村俊介(聞き手) リトルモア

この記事を書いた人

大杉信雄

-oosugi-nobuo-

アシストオン店主

1965年、三重県生まれ。良いデザイン、優れたインターフェイス、使う楽しさを与えてくれる製品を集めた提案型の販売店「アシストオン」店主。


「アシストオン」:http://www.assiston.co.jp

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