2018/09/24
金杉由美 図書室司書
『ああ、犬よ! 作家と犬をめぐる28話」キノ・ブックス
杏、本上まなみ、アーサー・ピナード、星野智幸 他 / 著
昔から動物モノに弱い。
「ゴンよ、おまえか」
これだけで目頭が熱くなる。
「ノラが、いない」
号泣してしまって活字が読めない。
「さよなら、ラッシー」
無理。もう無理。ごめんなさい。
この本は、そんな人間が決死の覚悟で読んでみた「犬のアンソロジー」。エッセイ、詩、コミックなど、犬飼いの作家たちが愛犬について描いたバラエティ豊かな作品の宝箱。
山本容子の野生児ルーカス、杏の弟ハリー、宮本輝の早撃ちマック、向田邦子の凛々しい鉄、村田喜代子の優しきルビー。雑種、ビーグル、秋田犬、コリー、レトリバー、その他いろいろ。犬種の博覧会。
どいつもこいつも、なんて愛しいヤツなんだろう。
名作のモデルになったおなじみの犬たちもいて、思いがけない再会に既に涙腺が危うい。
自分ちの子みたいな気分になっている。また逢えてうれしいよ。
著者たちの犬デレっぷりにもまた、癒される。
家族にも言えない愚痴や弱音や本音を、犬たちは一生懸命にピンと立てた耳で聞いて、黙ってひたすら寄り添う。飼い主である作家たちの秘密をモフモフした毛の中に受け止めて、どこにも漏らさない。
北方健三があんなに犬と愛娘に弱いなんて、猫派だった星野智幸がこんなにちゃっかりと犬派に鞍替えしたなんて。最初はクールに接していても、いつのまにか夢中になって赤ちゃん言葉で話しかけてしまう。挙句の果てには、書きかけの小説のアドバイスを求めたりする。ああ、犬って怖ろしい。
賢くてもヌケてても勇敢でもビビリでも、自分のうちの子は、いつだって名犬だ。
幸せになりたいのなら、犬を飼うのが一番手っ取り早くて確実な方法ではないか?
どんな飼い主にも、純粋な愛情を惜しまずにたっぷりと与えてくれる。名前を呼んでちょっと頭をなでてやるだけで、活き活きと目を輝かせる。散歩をさぼっても餌やりを忘れても、健気に機嫌よく尻尾を振ってくれる。こんな生き物と出会ったなんて、自分の人生も捨てたもんじゃないなあと思えてくる。
犬はたぶん、しっぽの生えた天使なんだと思う。誠実じゃない恋人はいても、誠実じゃない犬はいない。
でもその幸せの先には、必然の最期が見えている。どうしたって犬の寿命は人より短いので、早ければ数年、長くても十数年で別れはやってきてしまう。
だから犬との物語にはいつも、かすかな影がさしている。この本も例外ではなく、哀しみの予感が霧のように漂っている。犬の数だけ別れがあり、みんないつの日か去っていく。
一緒に過ごしたわずかの年月は、思い出となってどこかに隠れていて、こういう風に掘り起こされて作品になった後も、読む人の心に小さな波をおこす。
そうやって犬たちは永遠に生きていく。それはもう「犬という動物」じゃなくて、純粋な愛情の結晶なんだから、決して消えたりはしない。
このアンソロジーは、そんな結晶を抱えた読者たちの胸に、柔らかい棘をそっと刺しこんでくる。
どこかでいつか別れたあの子が吠えている。
ああ、やっぱり無理。もう無理。
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角田光代、村上春樹、片岡義男、浅田次郎、他 /著
猫飼いは更に病膏肓に入る人種なので、これも凄いことになっています。
錚々たる顔ぶれが猫にたぶらかされまくる一冊。併せて読むと犬飼いとの思考回路の違いがわかる、かも。
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