「あらいぐまラスカル」の役作り、声優・野沢雅子の真骨頂(#4)著:大野裕之
大野裕之『創声記-日本を話芸で支える声優たち-』

脚本家・映画研究家の大野裕之さんと声優・羽佐間道夫さんが、スターたちの肉声から「声優」の歴史に迫っていく「創声記」インタビュー。野沢雅子さんに聞く第4回は、野沢さんの生き物の役作りのお話です。一人静かに生き物の側に立ち、役作りへと向かう表現者の内に秘めた熱狂を聞いてください。

 

 

――野沢さんは動物のお声もおやりになっていらっしゃいますよね。

 

野沢 最初は「あらいぐまラスカル」ですね。その前に「ピコリーノの冒険」というピノキオの話をやっていました。収録後にそのディレクターとお茶を飲みながら「あそこはこうした方が良かったですかね」とかディスカッションをよくしていたのですが、ある時に「今日はオーディションがあってディスカッションに行けないんです」っていうから、「何のオーディションですか」と聞いたら、アライグマの見せられたんです。「へえ、これがしゃべるんですか」ったら、「鳴くだけです」って言うから、「え、鳴くだけ? 私、オーディション受けさせてください」「ダメダメ、台詞がないから」「いや、台詞がないから受けたいんです」っていって、受けさせてもらったんです。そしたら嬉しいことに受かったんですよ。

 

でも、アライグマの鳴き方って私、聞いたことないから、動物園に10日間ぐらい通いました。動物園好きだから飽きないんですけど、アライグマは全然鳴きません。一回も鳴かなかったですね。手は洗ったりするんですよ。

 

――アライグマですからね(笑)

 

野沢 困っていたら、「野性の王国」という番組で、洞穴からアライグマが出てきて、ちょうど画面中央にきたときに、「アンッ」って、たった一言鳴いたんです。これだ!ってインプットしました。

 

台本をもらうと、スターリング君が「ねえラスカル、どこか行きたい?」と言うセリフのあと、ラスカル「ミー」とセリフが書いている。私は、そこに、「僕公園に行きたいな」って書き込んじゃうんです。今度はスターリング君が、「何か食べたい?」って言うと、台本には「ミー」とだけ書いてあるところに「僕氷砂糖が食べたい」と自分で書きました。全部気持ちを台本に書いて、その気持ちで鳴いてました。

 

――なるほど。

 

野沢 他の声優さんは朝10時から録ってて、私は一人だけ3時からなんです。一人なんですよ、動物だから(笑)。でも、スターリング君がどんな風に話しかけてくれるかを聞きたくて、私も10時に入って他の声優さんの演技を聞いていました。それをインプットして、皆が帰ってから鳴き声をやったんです。

 

でも、動物のアライグマなんだけど、やっぱり最後のお別れは泣けましたね。もう悲しかった。スターリング君と別れるのが。とっても私にとっては思い出の作品ですね。

 

(第5回に続きます!)

 

野沢雅子(のざわ・まさこ)
1936年生まれ。主な出演作品に『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天、『ど根性ガエル』のひろし、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『銀河鉄道999』の星野鉄郎がある。

創声記_野沢雅子編

著:大野裕之 監修:羽佐間道夫

【大野裕之】

脚本家・日本チャップリン協会会長

チャップリン家の信頼もあつく、国内外のチャップリン公式版Blu-rayを監修。羽佐間道夫氏発案の「声優口演ライブ」の台本を担当する。著書『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)で2015年第37回サントリー学芸賞受賞。映画脚本家としては、2014年『太秦ライムライト』で第18回ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞受賞。


【羽佐間道夫】

1933年生。舞台芸術学院卒。劇団中芸を経て、『ホパロング・キャシディ』で声優デビュー。以来、声優の草分けの一人として数多くの名演を披露。代表作に、シルヴェスター・スタローンを吹き替えた『ロッキー』シリーズほか、チャールズ・チャップリンの『ライムライト』、ディーン・マーティン、ポール・ニューマン、ピーター・セラーズ、アル・パチーノの吹き替えなど多数。2008年、第2回声優アワード功労賞受賞。


写真= 髙橋智英/光文社

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