現役看護師の僧侶が語る「死の数日前」頃から一瞬だけ体調がよくなる理由
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agarieakiko

2019/02/08

死の間際、人の体と心はどう変わるのか?現役看護師の僧侶が、平穏で幸福な死を迎える方法と、残される家族に必要な心の準備を記した光文社新書『死にゆく人の心に寄りそう』(玉置妙憂著)が刊行になりました。刊行を記念して、『死にゆく人の心に寄りそう』の一部を公開します。玉置さんが語る「医療と宗教の間のケア」とはどのようなものなのでしょうか?

 

 

1)急に体調がよくなる

 

亡くなる数週間から数日前には、パッと調子がよくなることがあります。

 

それまでは、血圧や心拍数などもどんどん不安定になってくるし、言うこともなんだかおかしいし、という状態だったのが、急に体調がよくなって、意識もクリアになります。そして、「誰それに会いたい」と言ったり、「あれはあそこにあるから」と言ったり、好物だったものを「食べたい」と言って実際に食べたりします。

 

ただし、この状態は長くは続かず、1日か2日でまた元の状態に戻ります。したがって、食べたいものがあればそれを食べる最後のチャンス、入院していて「家に帰りたい」と言っているなら、家に帰る最後のチャンスです。

 

一つだけ例を挙げると、膵臓がんの末期で、看護師がみんな「もうこのまま亡くなるだろう」と思っていた患者さんがいました。ところが、この患者さんがある日突然、とても調子がよくなったのです。以前からずっと「家に帰りたい」と言っているのを知っていた家族が、帰宅するチャンスだと判断して、家に連れて帰りました。そして、「ピザを食べたい」と言うのでピザを取ると、それまで何も食べられなかったのに、実際にピザを食べることができたのだそうです。けれども、1日だけでまた調子が悪くなり、病院に戻って3日後に亡くなりました。

 

このように、着地態勢に入った人が着地寸前で、パッとクリアになることがあります。きちんとお別れをする時間が与えられているのだと、私は理解していますが、医学的には「低いところで全身のバランスが整った状態」のようです。それまでガタガタとバランスが崩れてきていたのが、一瞬ギリギリの低い位置でバランスが整い、また崩れていくのだろう、と。

 

この状態は、長くは続かないと同時に、再び訪れることもほぼありません。いわばラストチャンスなのですが、家族には往々にしてそれがわかりません。

 

家族にしてみれば、「やっとよくなった」と思うのです。それで、私たちが「家に帰るチャンスだから、帰ってみませんか?」と勧めても、首を縦に振りません。「やっと体調が上向いたのに、今家に帰ったりしたら、また悪くなってしまう」と。「もっとよくなれば、ゆっくり帰れるんだから、何も慌てて帰ることはない」と言って、チャンスを見送ってしまうのです。あるいは、「お寿司を食べたい」などと言われて、「まだ早いんじゃないの? これからいくらでも食べられるんだから」と、却下してしまうこともあります。

 

看護師は経験でわかっていますから、「残念だ」と思うのですが、「これがラストチャンスです」とか、「もうすぐ亡くなるんです」とは言えません。人には個人差があり、100パーセントそうだとは言い切れないからです。もどかしい限りです。また、個人差という意味では、最後に調子が整う時間は全員にあるわけではなく、徐々に下降していって、そのまま亡くなる人もいます。

 

2)血圧や心拍数、呼吸数、体温などがさらに不安定になる

 

ほんの短い間だけ調子がよくなったあとは、また体のバランスが崩れて、血圧や心拍数、呼吸数、体温などがさらに不安定になっていきます。なかでも目立つのが、呼吸の乱れです。呼吸のリズムが不規則になって、呼吸と呼吸の間隔が広がっていくのです。

 

すると、「息がおかしい!」と慌てて、救急車を呼んでしまうことがあります。呼吸の状態によっては、救急車が到着したときすでに亡くなっていたり、それまでにかかったことのない救急病院に運ばれて24時間以内に亡くなったりする可能性もあります。そうなれば、変死扱いになって警察が介入し、死因を特定するために解剖が必要となる場合もあります。 呼吸が不規則だと、すごく苦しそうに思えて、つい救急車を呼びたくなりますが、着地間近な人にとってこれは自然な経過です。端から思うほど、本人は苦しくないのです。

 

また、呼吸が安定しないために酸欠状態がさらに進み、じっとしていられなくて、意味のない体の動きが増える場合もあります。手足をぶつけて怪我をしないように、寝ている場所の周囲を片付けたり、ベッドから落ちないように気をつけたりする必要があります。

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死にゆく人の心に寄りそう

死にゆく人の心に寄りそう医療と宗教の間のケア

玉置妙憂(たまおきみょうゆう)

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