agarieakiko
2019/02/21
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2019/02/21
ブラックホールの素性は、一般相対性理論の枠組みで考えて初めて見えてくるものです。
ドイツ生まれの物理学者アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)は、20世紀初頭に二つの画期的な理論の構築に成功しました。それが、特殊相対性理論と一般相対性理論です。それぞれ、1905年、そして1915年から1916年にかけて発表されました。
特殊相対性理論は、慣性運動する観測者から見たときに電磁力学や力学現象を記述できる理論です。”慣性運動”とは、
・慣性系には外力が働いていない
・そのため、静止している物体はずっと静止している
・また、等速直線運動する物体はいつまでも等速直線運動をする
これはニュートン力学の第一法則、慣性の法則です。慣性の法則に支配された運動。それが慣性運動だということになります。
これでお分かりでしょうか。特殊相対性理論は、慣性系にしか適用できない理論なので、”特殊”という言葉が付いているのです。
アインシュタインがこの理論を考えていた頃、電磁力学や力学で困ったことが起きていました。電磁波の伝播を記述する方程式(提唱者の名前に由来してマックスウェル方程式と呼ばれる)が、異なる慣性系(等速直線運動の速度が異なる)では同じ形式では書けないのです。しかし、方程式が正しいのであれば、何か間違っていることになります。そこで、アインシュタインは次の二つの仮定をすることにしました。
・光速度不変の原理:真空中の光速度cはいかなる慣性系でも同じ値をとる
・相対性原理:いかなる慣性系も等価である(つまり、絶対的な系はなく、すべての慣性系は区別できない)
これらの仮定をすると、それまでうまくいかなかった電磁波の伝播などが、どの慣性系でも同じ形式で記述できることに気づいたのです。慣性系は空間3次元と時間1次元の4次元時空です。空間と時間が力を合わせて調整してくれるので、真空中の光速度cはいかなる慣性系でも同じ値をとることができるようになるのです。
それには、ある変換式を用いなければなりませんが、その変換式はすでにローレンツ変換として知られていました。これは電磁波の伝播を矛盾なく説明するために考えられたもので、空間座標(x,y,z)と時間t(つまり時空)は相互に関係していることを要請するものです。アインシュタインは、この変換式がなぜ重要なのかを明らかにしたのです。
それまで採用されてこなかった二つの仮定を置いたことにはオリジナリティがあります。しかし、既知の変換式が本質的な役割をするので、特殊相対性理論の評判は当初はよくなかったようです。実際、この論文は博士論文としては認められなかった経緯があるくらいで、驚いてしまいます。
だが、この理論は質量とエネルギーが等価であることを示すなど、物理学の発展に大きな寄与をするようになっていきました。皆さんも、E=mc2という式を見たことがあるのではないでしょうか。この式でEはエネルギー、mは物質の質量、そしてcは真空中の光速度です。つまり、エネルギーはエネルギーとして存在してもよいし、質量を持つ物質として存在してもよいのです。まさか、そんなことになっていたとは……。
実のところ、相対性理論は私たちの実生活でも大いに役立っています。カーナビで使われているGPS(全地球測位システム、Global Positioning System)がうまく機能しているのは、特殊相対性理論と一般相対性理論の効果を補正しているからなのです。つまり、GPS衛星の速度や地球の重力の影響が相対性理論に基づいてきちんと補正されているのです。GPS衛星は高度2万キロメートルの上空を飛んでいます。地表に比べて地球の重力が弱いので、時計の進み方がわずかに早くなります。その補正をしなければならないということです。
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以上、『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』(谷口義明著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。
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