不登校を生む教育現場の課題(2)「スポーツ推薦」「スクールカウンセラー」の真実――子どもが不登校・ひきこもりにならない/から脱出するための子育て術
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2019年5月。元号が平成から令和に変わり、日本中が新しい時代の幕開けに心躍らせていた矢先に起こったのが、スクールバス襲撃や元農水省幹部の長男刺殺といった「ひきこもり」に関連した凄惨な事件の数々でした。若者の不登校・ひきこもり問題に30年以上支援活動を続け、延べ1万人以上の生徒を立ち直らせてきた著者が、事例を踏まえて解決の糸口を贈る『不登校・ひきこもりの9割は治せる』(7月18日発売・光文社刊)より、不登校を引き起こす教育現場の内情についてご紹介します。「スポーツ推薦」、「スクールカウンセラー」編です。

 

 

◆スポーツ推薦は退部=退学?

 

もうひとつ、私立校で不登校や退学になりやすい背景に、スポーツ推薦制度があります。

 

昨年は日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル事件を皮切りに、スポーツ現場でのパワハラ問題が相次ぎましたが、事の本質は同じです。

 

朝日新聞記者の中小路徹さんのスポーツ推薦や部活動の問題に迫った『脱ブラック部活』(洋泉社)という本にも詳しく現状が書かれています(私もこの取材に協力しています)。

 

スポーツの強豪校では、部活動の成績が学校の知名度や評価に直結しますから、監督やコーチも、勝てれば何をやってもいいといったマインドになりがちです。先輩からのしごき、いじめもあります。

 

相談を受けたあるケースでは、柔道部で先輩からのいじめがありました。

 

団体戦に出られる選手は1年生から3年生までを含めて5人だけなので、実力のある1年生が、試合に出られない3年生の先輩に猛烈ないじめを受けるのです。

 

こうしたことはたいてい、大人が見ていないところで起こります。相談に来た生徒は、先輩から「締め技ってこうなんだぞ」と死にそうになるくらいの技をかけられたり、わざと耳をつぶされたり、指一本だけを持って背負い投げされて、けがをしたりしたといいます。

 

こうしたパワハラを受けて部活を辞めようとしても、スポーツ推薦で入学した場合、部活を辞めてしまうと、事実上高校生活自体を続けられなくなります。

 

部活のスポーツばかりをやらされて、きちんと勉強を教えてもらっていないので、スポーツ推薦の生徒が在籍するコース以外の普通コースに移れないのです。実際にあったハルトくん、リュウタくんの例をあげます。

 

【ハルトくんの事例】

(現在、通信制高校2年生。野球のスポーツ推薦で高校入学後、不登校になり、退学)

 

中学3年生の時、ある大会で活躍したハルトくんが、都心の私立高校のスカウトの目に留まり、チームの監督の薦めもあり、この私立高にスポーツ推薦で入学しました。

 

順風満帆に見えたハルトくんでしたが、野球部のグラウンドが電車で1時間以上かかる郊外にあったのが誤算でした。

 

朝は5時に家を出て、朝練をこなしてから授業を受け、放課後に部活でみっちり練習して帰宅すると、いつも夜10時をまわっていました。監督や先輩からのいじめはなかったものの、あまりに厳しく長時間にわたる練習で、身も心もすり減ってしまったのです。

 

勉強して大学進学を目指す普通コースと、部活で結果を出して推薦で大学進学を目指すスポーツコースでは、校舎の場所も違い、グラウンドのすぐ隣がスポーツコースの校舎でした。当然、部活を休んだのに、学校だけに行ける雰囲気ではありません。

 

ハルトくんは部活に出なくなると同時に、学校にも行かなくなりました。行かなくなって1週間くらいしてから、学校だけに行ってみたのですが、ハルトくんが教室に来ただけで、クラスの空気が一変したといいます。

 

「異様な空気で、とてもその場にいられませんでした」とハルトくんは振り返ります。

 

スポーツコースから普通コースへすぐ移りたいと学校へ願い出たものの、受け入れてもらえず、それ以来、学校へは一度も行かず、1年間ひきこもってゲームばかりしていたそうです。その後、ひきこもりから脱出して、通信制高校に編入学しました。

 

ハルトくんは「スポーツ推薦で入学すると、あまり勉強は教えてもらえずにスポーツばかりやらされますが、そのスポーツがうまくいかなくなったら、学校にいられず、進学の道も閉ざされてしまいます。将来生きていくためには、やはり勉強して高卒資格を取ったり、大学に進学したりすることが大事です」と言い、今は大学受験に向けて勉強しています。

 

【リュウタくんの事例】

(現在、通信制高校2年生。サッカーのスポーツ推薦で私立高校に入学し、先輩から執拗ないじめを受けて退学。その後通信制高校で高卒資格取得を目指している)

 

リュウタくんは幼稚園生の時にサッカーを始め、地元のクラブチームでめきめきと力をつけて、小学生の時は全国大会で活躍し、海外へサッカー留学していました。

 

現地では朝から昼までサッカーの練習で、昼ご飯の時だけ日本語学校へ行き、ご飯を食べながら勉強しました。

 

午後はまたサッカーの練習をして、サッカー漬けの毎日を送っていました。中学校3年生で日本へ帰国すると、全国の高校からスポーツ推薦入学のオファーが来たといいます。

 

そのなかのひとつのサッカー名門高校に進学しましたが、リュウタくんは1年生なのに最初からレギュラーで特別待遇だったことが、先輩たちのいじめにつながりました。

 

いじめをするのは、レギュラー以外の2年生、3年生です。部室に呼び出され、先輩たちに周りを囲まれて、スパイクで体を蹴られるなどの暴行を受けました。いじめは半年くらい続いたといいます。

 

監督もまるで独裁者のようで、自分の思った通りにしないと、試合にも出してもらえず、個人攻撃されたそうです。

 

「自分のプレーの質も落ちるし、モチベーションもなくなった」とリュウタくんは退学しました。現在は通信制高校で高校卒業資格を取るのを目標にしながら、同時にクラブチームでサッカーの練習をしてプロを目指しています。

 

これまで見てきたように、私立校で不登校や中退、ひきこもりが生まれる背景はさまざまです。ただ、学校側がその対策をとっているかどうかといえば、私は不十分だと考えています。

 

◆スクールカウンセラーへの過剰な期待

 

私立側が不登校対策としてよくあげているのが、スクールカウンセラーです。「スクールカウンセラーが週に3日来ているので相談できます」などと、胸をはって言いますが、私に言わせれば、何の解決にもなりません。

 

なぜかというと、カウンセラーは聞くだけだからです。受容して肯定するだけなのです。

 

「不登校なのです。どうしたらいいですか」と相談しても、「そうなのね、不登校なのね」と言うだけ、肯定するだけで終わってしまいます。確かに生徒や親の気持ちを肯定することも非常に大事ですが、そこから先に進めません。

 

また、スクールカウンセラーは外部委託の場合が多く、学校内の人間関係もほぼわかっていません。

 

「A先生がこうで、B先生がこう言った」と相談されても、わかってあげられないのです。「ああ、B先生、ちょっと面倒臭いところあるよね」などと生徒に共感してあげることもできません。ですから、適切なアドバイスをしにくいのです。

 

「スクールカウンセラーに相談して、カウンセラーさんと仲良くなったはいいけど、その後、結局何も事態は変わらず困っています」といって当会に相談に来るケースはよくあります。

 

当たり前ですが、先生は自分のクラスの担任だけでなく、教科ごとにいます。9教科あれば9人の先生がいるわけです。

 

担任の先生に悩みを相談できればいいのですが、担任の先生と相性が合わない場合もあります。それなら別の先生に相談すればいいのです。

 

すると、学校内の人間関係もよくわかっているので、生徒の納得するアドバイスができるのですが、最近多い外部委託のカウンセラーでは、ほとんど話が通じなくなっているのです。

 

不登校の子が学校へ行くようになるために、ひきこもりの子が自分の部屋から出てくるために必要なのは、カウンセラーのような自分と全く違うポジションにいる人ではありません。

 

一番効果があるのは、親でも先生でもない、ちょっと前まで自分と同じ体験をしていたような、同じくらいの年齢の友達と関わることなのです。

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