ryomiyagi
2021/02/02
ryomiyagi
2021/02/02
もったいぶらずに答えを先に言ってしまえば、お金の正体とは「共同幻想」です。実体のない、幻にすぎないんですね。
けれど幻だからといって、お金が存在しないかのように振る舞うことはできません。あなたが「お金は幻だ」と言い張って、店から衣服や食べ物をお金を払わず持ってこようとしたら、当然のことながら窃盗犯として警察に捕まってしまいます。
それだけではありません。もしお金という幻がなかったら、スマホでポケモンGOを遊べる、今のような世界は存在していません。お金という共同幻想のおかげで、私たちは豊かになり、そして不幸せにもなったのです。
いきなり最初から、お金とは「共同幻想」だと種明かしをしてしまいました。
今の世界では、みんながお金に価値があると思い込んでいます。あなたがお店に行って1000円を払えば、1000円の値札が付いた商品を買うことができる。「1000円」と書かれただけの紙切れに、1000円という価値があるとみんな信じているからこそ、こんなことが可能になっているのです。
では、価値とは何なのか。
それを測るためのツールからまずは話を進めていくことにしましょう。
お金という共同幻想によって、私たちは顔見知りでない人とも取引ができるようになりました。いっしょに住んでいる家族や親類、近所に住んでいる人が相手でなくても、お金を介することでさまざまなモノと交換できる。
考えてみれば、これだけでも十分にすごいことなのですが、経済史上、いや人類史において、非常に重要な発明が12世紀頃になされました(時期に関しては諸説あります)。
それが「複式簿記」です。
実を言えば、僕も自営業者になるまでは、複式簿記が何なのかよくわかっていませんでした。
お金の出入りさえきちんと記録しておいて(これを単式簿記と言います)、利益や損失がわかっていれば十分だろうと考えていたのですが、複式簿記の短期講座を取ってみて、衝撃を受けました。こんな仕組みは、自分でいくら考えても絶対に思い付かない。複式簿記を人類の叡智と言わずして、何を叡智と言うのか。しかも、基本的な考え方はシンプルで、足し算と引き算しか使わない。小学校の高学年なら、十分に理解できるでしょう。
複式簿記の中で、最も重要な概念が貸借対照表、バランスシートです。
バランスシートの左側に書かれているのは「資産」です。資産とは何かと言えば、自分が使えるもの、使っていいものを指します。「自分の」ではなく、「自分が使える」であることに注意してください。
右側に書かれているのは、上が「負債」、下が「資本」です(会計用語としては「純資産」が使われますが、本書では「資本」で統一することにします)。
負債というのは、他人から借りているもの、要は借金のこと。
資本というのは、「自分自身のもの」です。
つまり、「負債」と「資本」を足し合わせたものが「資産」ということになります。逆に言えば、資産から負債を引いた残りが資本とも言えます(会計用語として「純資産」が使われるのは、この意味を強調するためでもあるのでしょう)。
先ほど、資産とは「自分が使えるもの」だと書きましたが、借金も含めて自分の資産なんです。
例えば、仕事をして現金で100万円の報酬をもらったとしましょう。この場合、左側には「現金」が100万円追加され、右側には「収益」が追加されます。その結果、追加された100万円分資本が増え、資産も大きくなります。
100万円の借金をした場合は、どうなるでしょうか。左側に現金100万円分が追加されるのは先ほどと同じですが、右側に追加されるのは収益ではなく借金です。資産の増加額は先ほどと同じでも、今度は右上の負債が増える点が異なります。
ここで100万円の借金を返したら、右側の負債が100万円減ると同時に、左側からも100万円減る、つまり資産全体は100万円減ることになります。
左側と右側が常に釣り合っているから、バランスシートというわけです。
これくらいの単純な取引だけなら、単式簿記でも十分に管理できます。しかし、さまざまな品を仕入れては売るということを繰り返していくとしたら? 人からお金を借りて、新しい店を出すなど事業を拡大していくとしたら?
いったい自分はどれだけのものを使えるのか、そのうち人から借りているのはいくらで、自分の持ち物と言えるのはいったいどれだけなのか。資産状況を把握するためには、複式簿記が不可欠です。
よく「お金は天下の回りもの」という言い方をしますね。でも、バランスシートが生まれたことによって、「自分の持ち物」である「資本」が発見されたという見方もできます。
バランスシートができたことで、自分のものと他人から借りているものをきちんと区別できるようになり、借金を行いやすくなった。人からお金を借りることで、手持ちのお金でできる以上のことができるようになった。
これが、資本主義の原点なのです。
自分の持っている「資産」は、人から借りている「負債」と、自分自身の「資本」で構成されている。左右のシートが常に「バランス」がとれるよう、お金の出入りを「仕訳」していく。このバランスシート(BS)と、収益/費用を管理する損益計算書(PL)を合わせれば、自分の資産状況が確実に把握できるのです。
バランスシートという概念を知ったことで、世の中のカネの流れがとてもクリアに見えてきます。(続きは本書で)
小飼 弾(こがい・だん)
投資家、プログラマー、ブロガー。株式会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア、現在の株式会社データホテル)の取締役最高技術責任者(CTO)を務め、同社の上場に貢献。著書に『新書がベスト』(ベスト新書)、『弾言』『決弾』(共著、ともにアスペクト)、『小飼弾の「仕組み」進化論』(日本実業出版社)、『「中卒」でもわかる科学入門』『未来予測を嗤え!』<共著>(ともに角川oneテーマ21)、『働かざる者、飢えるべからず』(サンガ新書)、『本を遊ぶ』(朝日文庫)など。
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