akane
2018/05/04
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2018/05/04
京都生まれ、京都育ちの作家・柏井壽さんは、近年の行き過ぎたグルメブームに警鐘を鳴らしています。4月18日発売の光文社新書『グルメぎらい』から、予約困難店とSNSの関係について論じた箇所を紹介します。
2、3か月待ちは当たり前
長く続くグルメブームは本来あるべき食の姿を大きく歪ませました。そのひとつに予約システムがあります。
東京では以前からあったようですが、京都でかなり先までの予約が入っていて、何か月以上も待たないと入れないような店ができたのは、そう古いことではありません。10年ほど前には考えられなかった現象です。
どれほどの人気店であっても、予約困難などあり得ませんでした。
――明後日の夜にふたりで食事をしたいのですが――
なじみの割烹に電話を入れます。
――あいにく席が埋まっておりまして、遅がけの時間か、次の日ではいけませんか――
ご主人が恐縮しているのが、手に取るように分かります。
予約が取れない、といってもたいていはこんな感じでした。2か月も3か月も先まで予約で埋まっている店? そんなアホな。というのが普通の京都人の感覚だったのです。
それが今はどうでしょう。ちょっと名の知れた割烹料理店はたいてい予約困難です。今日明日に行きたいと思っても、叶うはずがありません。
明日の予約? 無理に決まっているでしょう。となるのが昨今の京都の和食店事情なのです。京都のお店で予約困難な店は山ほどあります。
なぜそんなことになったのか。僕なりに検証してみました。
立ち食い蕎麦では「SNS映え」しない
ひとつにはグルメブームですね。
冒頭に書いたように、一億総グルメといった流れは年々勢いを増しているようです。美味しいものを食べたい、というよりは美味しい店に行きたい。そんなグルメだらけの世の中です。
そういうグルメの人たちが家庭でも美味しいものを食べているかといえば、どうやらそうではなさそうです。
つまりは、食より店、というのが近年のグルメと呼ばれる人たちの傾向なのです。
それが最もよく分かるのがSNSです。
インスタグラム、フェイスブックなどにあふれる料理写真。そのほとんどがお店で食べているシーンです。当然のことながら、どこのどんな店かも分かる仕組みになっています。
となれば、できるだけ人がうらやむ店に行って、その写真を投稿したくなるのが人情というものです。
そこで登場するのが人気店です。〈今話題の〉や〈今人気の〉といった形容詞と並んで〈予約の取れない〉店が、SNSで自慢できる三大条件です。
よほどのマニアでもない限り、駅の立ち食い蕎麦やファミレスの料理を投稿しても、うらやましがってもらえません。半年先まで予約で埋まっている店なら、大いに自慢できます。料理評論家や著名なグルメブロガーが絶賛する店もしかりです。あまたの困難を乗り越えてでも、この三大条件に当てはまる店を目指す人たちが山ほどいるのは、そういうわけです。
<プロフィール>
柏井壽(かしわいひさし)
1952年京都府生まれ。1976年、大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修役を務める。『日本百名宿』(光文社知恵の森文庫)、『京都人のいつものお昼』(淡交社)、『できる人の京都術』(朝日新書)、『京都の定番』(幻冬舎新書)、『二十四節気の京都』(PHP研究所)など著書多数。「鴨川食堂」シリーズ(小学館)や「名探偵・星井裕の事件簿」シリーズ(柏木圭一郎名義)など、小説家としても活動する。
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