世界最大の慈善団体が「避妊」を支援するわけ
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ryomiyagi

2019/12/04

(C)Pivotal Ventures(C)Jason Bell

 

女性の地位を包括的に向上させることが、世界全体の進歩につながる――夫ビル・ゲイツとともに世界最大の慈善団体の共同議長を務めるメリンダ・ゲイツは、著書『いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる』(THE MOMENT OF LIFT)の中で、女性や少女への国際的な支援が必要な理由を示し、解決策を提案している。11月に日本語版が刊行となった本書から抜粋し、世界が注目するメリンダの活動の一端を覗いてみよう。

 

妊娠したくない女性たち

 

財団を設立して間もないころ、出張でアフリカのマラウイを訪れ、忘れられない光景を目にしました。焼けつくような暑さの中、多くの母親が子どもに注射を受けさせようと列をなしていたのです。

 

話を聞いてみると、遠くからはるばる歩いてやってきたそうで、その距離は15〜25キロに及びました。1日分の食料を持参し、ワクチンを接種させる子どもだけでなく兄弟も連れてきていました。

 

日々過酷な状況を生きている母親たちですが、その中でも特に過酷な一日でしょう。私たちはちょうど、もっと近場で容易に、より多くの子どもがワクチン接種を受けられるよう模索している時でした。

 

その日、幼い子どもを抱えた若い母親に話しかけた時のことが強く印象に残っています。「お子さんのワクチン接種にいらしたんですか?」

 

すると母親は、こう言い出しました。「私の注射は? 注射を受けるには、こんなに暑い中を20キロも歩いていかないといけないのよ?」

 

子どものワクチンではなく、自分が受けたいデポ・プロベラの注射のことを言っていたのです。デポ・プロベラは、接種すると長期間効果が持続する避妊薬です。

 

その母親は既に子どもの数が多すぎて、満足に食事を与えられず、再び妊娠するのを恐れていました。しかし子どもを連れ、丸一日費やして遠くのクリニックへ行ってもデポ・プロベラの在庫があるかわからず、ストレスを感じていました。当時、旅先で出会う女性の多くが同じように、こちらが子どものワクチンの話題を出しても、避妊薬の話をし始めるのでした。

 

 

出産間隔を開けると子どもの生存率は激増する

 

またニジェールのある村で、サディ・セイニという名の母親のもとを訪れた時のことも印象に残っています。私とサディが話している間、六人の子どもたちはサディの気を引こうと、競い合ってちょっかいを出していました。

 

サディも多くの母親と同じように、こう言っていました。「また子どもを産むかもしれないなんて、ひどい。今いる子どもにさえ食事を与えられずにいるのに」

 

ナイロビのコロゴチョという貧しい大地区では、メアリーという名の若い母親に出会いました。メアリーは青いジーンズ生地の切れ端でリュックサックを作り、生計を立てていました。

 

幼い二人の子どもの世話をしながらリュックを製作している自宅に私を招き、メアリーは避妊薬を使う理由をこう話しました。「生きていくのは大変なので」

 

私が夫も賛成しているのかときくと、こう答えました。「彼も同じ思いです」

 

その後も旅する中で、目的は何であれ、避妊薬が欲しいという声を多く耳にしました。全ての母親に子どもを亡くした経験がある地域や、出産で命を落とした女性の多くいる地域もありました。

 

既にいる子どもさえきちんと育てられないのだから、もう二度と妊娠したくないと思っている母親に多く出会いました。私が別の目的のために訪問しても、女性たちは常に避妊を話題にします。それがどうしてなのか、次第に状況を理解するようになりました。

 

私がデータでしか知らなかったことを、彼女たちはまさに体感していたのです。

 

2012年のデータによると、経済的に困窮している69カ国では2億6000万人の女性が避妊薬を使用していますが、一方で2億人以上の女性が避妊薬を使用したくてもできない状況にあります。発展途上国では非常に多くの女性が、望む時期に妊娠できなかったり、頻繁に妊娠して体に負担がかかったりしているのです。

 

発展途上国の女性が出産間隔を3年以上空ければ、生まれた子どもの一年後の生存率は2倍近く上がり、5歳の誕生日を迎えられる確率は35パーセント上がるとされています。避妊薬の普及が必要である十分な理由です。しかし、理由は他にもあります。

 

(C)Bill & Melinda Gates Foundation / Frederic Courbet

 

避妊サービスを提供するマリー・ストープス・インターナショナルの出張プログラムでセネガルの診療所へ。

 

家族計画こそが国を貧困から救う

 

1970年代から続けられている、公衆衛生に関するある研究があります。バングラデシュの村々の半数の家庭に避妊具を提供し、もう半分には提供しなかったところ20年後、提供を受けた家庭の方が母親の健康状況が良好で、子どもの発育も良かったそうなのです。またそちらの家庭の方が、家計も豊かで女性の収入も多く、子どもが高い学歴を身につけていたそうです。

 

理由は簡単です。女性が妊娠のタイミングや間隔をコントロールできれば、より高い学力を身につけ、より多くの収入を得て子どもを健康に育てられるからです。

 

また子ども一人一人に食事を与え、世話をし、豊かに生きるための教育を受けさせるための時間とお金を、より多く手に入れられるからです。子どもの可能性を引き出せば、将来貧困に苦しまずにすみます。

 

そうして各家庭も国全体も貧困から抜け出せるのです。実際、過去50年で貧困から脱した国の全てで、避妊が普及してきました。

 

財団を設立して間もない頃、避妊の普及支援を行いましたが、未来への素晴らしい投資となりました。避妊の普及で多くの命が救われ、多くの人が貧困から脱し、女性の地位向上をもたらしたと分かったのは何年も経ってからでした。

 

家族計画の推進がもたらす効果を知り、この問題を重要課題の一つとして掲げ続けようと決めました。

 

家族計画の推進は初めの一歩に過ぎません。しかしその一歩は避妊薬の普及にとどまらず、女性の地位向上につながるのです。子どもを持つか、いつ妊娠するかを決める権利の獲得につながるだけではなく、長い間女性を虐げてきた様々な壁を取り払うための、一つの鍵でもあるのです。

 

妊婦と新生児の健康、家族計画、女性や少女の教育、無償労働、児童婚、農業や職場において女性が抱える課題といった全ての問題は、女性の地位向上を妨げる障壁に起因しています。

 

障壁がなくなれば、女性を貧困から救うだけでなく、あらゆる文化・社会レベルにおいて、女性の地位は男性と同等まで引き上げられます。問題を個別に改善するより、世界全体を包括的に改善する方が大きな変革を起こせるはずです。

 

その相関関係は、各種のデータ分析で明確に裏付けられます。貧困について調査すれば、弱者として存在する女性の姿が見えてくるでしょう。繁栄している場所に目を向ければ、力を持つ女性の姿が見えてくるでしょう。

 

女性が子どもを持つか、いつ子どもを持つかを自身で決められるようになれば。結婚をするか、いつ誰とするのかを決められるようになれば。自身の健康を守る手段を得て、不当な無償労働を強いられなくなり、望む教育を受け、資産に関する必要な意思決定をできるようになれば。

 

労働の現場で敬意を持って扱われ、男性と平等に権利を得て、周囲の男女の力を借りてリーダーシップを身につけ、高みへ上ることができれば。――そして女性が豊かになり、家庭や社会を豊かにできれば。

 

その一つ一つは壁とも、扉ともとらえられます。私たちはどちらととらえるのか、答えはもう出ています。既に力を得ている今日の女性の心と精神が放つメッセージは、こうです。「全ての壁は、扉なのだ」

 

ともに壁を打ち破り、扉を開けて外へ踏み出しましょう。

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いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる

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メリンダ・ゲイツ/久保陽子訳

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