カイロの道はラクじゃない 車椅子トラベラー、アフリカをゆく(3)
ピックアップ

ryomiyagi

2020/05/18

著書『No Rain,No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周』で、270日間単独車椅子世界一周旅行を記した車椅子トラベラー・三代達也さん。世界一周に続ける形で、2019年秋、念願のアフリカ旅行を達成しました。その車椅子アフリカ旅行記3回目。エジプト・カイロに着いてから、ピラミッドにたどり着くまでの珍道中です!

 

カイロの子どもたち

 

アラビア語に囲まれて

 

カイロ到着。
空港には10時前に到着したのに、宿に辿り着いたのはその3時間後だった。
まずウーバーで空港までお迎えをお願いし、20分くらい炎天下で待ちぼうけ。
やっと来たと思ったら、ドライバーさん英語が話せない。
これには慣れているので、ネットで予約したホテルのインフォメーションを見せる。
いつものパターンだ。

 

それにしても、いくら走っても目的の宿までたどり着かない。
「バレンシア・アパートメント」という場所なのだが、住所通りに行くと周りの建物にはバレンシアのバの字もない。

 

バレンシア・アパートメントに向かうウーバーで

 

車だと通れる道に限界があるからと、車を降りたドライバーさんが、僕の車椅子を押して30分以上辺りを探し回ってくれたのだが、それでも見つからない。
街中は大気汚染がひどく、物乞いもいる。
車椅子など関係なく「マニー!!マニーーー!!!」と、しつこくたかってくる。

 

「おい、、やばいよ」
心の声が、思わず口から出た。

 

だんだん僕の周りに野次馬的な人だかりができて、口々に助言を伝えてくれるのだが、なにぶんみんな英語が話せない。
アラビア語であーだこーだと、僕のために何かを言い続けてくれている。

 

この時点で、空港から市内に到着して1時間は経った。
ドライバーのお兄ちゃんは、文句も言わずに着いてきてくれいる。

 

そんな中、片言ではあるが英語が話せるおじちゃんが現れた!

 

ミヨ「バレンシア・アパートメントに行きたいんだ!知ってるかな?」
英語おじちゃん「バレンシアホテルならあるぞ」
ミヨ「いや、間違いなくバレンシア・アパートメントなんだ……。バレンシアホテルがあるのも知っている」

 

救世主のおじちゃんが、近くにいた別のホテルの従業員と思しき人に声をかけ、「バレンシア・アパートメント知ってるか?」と聞いてくれている。
すると彼が、「ちょっと待ってろ」と言ってバレンシアホテルの担当者と電話を繋いでくれた。

 

カイロの救世主ムスタファ

 

数分後、バレンシアホテルの担当者が来てくれた。
彼はムスタファと名乗った。
パリッと白シャツにネクタイの好青年で、流暢な英語を話す。

 

ムスタファ「バレンシアホテルとバレンシア・アパートメントは同じエリアにあるんだ。でもどちらも階段があって……。もしアパートメントのほうに泊まるなら、君一人でその段差を上がっていかないといけないが、ホテルのほうに泊まるのなら、俺たちがいつでも担いでやるぜ」
ミヨ「ホテルとアパートメントは同じ料金?」
ムスタファ「もちろんだ!泊まるかい?」
ミヨ「お願いします!」

 

ホテルまで連れてってもらうと、入り口に段差が1段、受付までのエレベーターまでに階段が10段以上、部屋の入り口に段差が1段というバリアッぷり。

 

まーじーかーーーー!!!
やべーーーー!!

 

バレンシアホテルの階段

 

でも、ムスタファ含むホテルの従業員さん達は嫌な顔一つせず運んでくれた。
部屋に入ると、トイレは車椅子の幅が通らず使用不可。シャワーはブチ壊れている。
そしてシングルベッドが一つだけの質素過ぎる部屋。昨日までの豪華客船との落差がやばい。

 

うひょー、これはきつい。
まぁ一泊だけ耐えて、明日はまた別のホテルを探そう。

 

プライベートルームなだけ、パルテノン神殿のときのドミトリーよりはいくらかましだ(詳しくは『一度死んだ僕の、車いす世界一周』参照)。
でも、2〜3時間近く歩き回ったあげく、スーパーバリアなホテルしかない時点で(しかも、それでもそこそこな値段)精神的にキツいカイロの幕開けだ……。

 

うなだれていると、ムスタファがスッとどこかに行ってしまった。
そしてすぐ戻ってきた。
近くの売店でチョコクロワッサンを買ってきてくれたのだ。
昨日まで船のブッフェで何百個と並んで違たスイーツには目もくれなかったが、僕はそのクロワッサンに涙を流しながらかぶりついた。

 

うめぇ。うめぇよぉ。

 

最初から何でも揃っている空間だと、あまり感謝の気持ちが生まれないけれど(今回だと豪華客船の大量のスイーツ)、苦労して、本当に苦労してたどり着いた先の当たり前(1個20円くらいのチョコクロワッサン)って当たり前じゃないんだなぁ。

 

さらにムスタファに、「この段差だとあまり出かけられないから、水を買いたいんだ」と伝えると、
「大きいのがいいか?小さいのがいいか?」
と聞かれる。
もちろん大きいほうがいい。
「大きいほうで!」と伝えると、すぐに持ってきてくれた。
いくら?と聞くと

 

「一回目だけ無料だぜ♪(ニコッ)」

 

超絶優しいスマイルで、水のボトルを手渡してくれた。
お礼に、エジプトで喜ばれるという日本のボールペンを差し上げた。

 

憎いほどの好青年ムスタファ

 

あぁ。なんだかさ、ほんとNo Rain, No Rainbowだと思うよ。旅ってさ。
雨が降ったからこその、虹なんだ。

 

バリアフルな宿のため最初は1泊だけにするつもりが、ムスタファと出会えたことで、残りの滞在もこのホテルに決めた。
表向きはバリアでも、たった1人の優しさがバリアを超えることもある。

 

エジプトは三大うざい国などと呼ばれることがあるけど、それは人の捉え方次第かもしれない。
とにかく距離が近くて、欲望に素直で、献身的で、何より笑顔が素敵。
僕は最高に好きな国だ。

 

ただ、「マニマニマニーーー!!」って超大声で叫びながら付いて来られるのはちょっと……。
まぁ良いことばかりじゃないから、旅は面白いよね。

 

次はケニアへ!

関連記事

この記事の書籍

一度死んだ僕の、車いす世界一周

一度死んだ僕の、車いす世界一周No Rain,No Rainbow

三代達也(みよ・たつや)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

一度死んだ僕の、車いす世界一周

一度死んだ僕の、車いす世界一周No Rain,No Rainbow

三代達也(みよ・たつや)