ryomiyagi
2020/05/29
ryomiyagi
2020/05/29
いざ、自分の書いた小説が「お仕事小説ですね」と言われると、尻のあたりがむずむずしてしまうのは私だけではないと思うのです。
なぜわざわざ仕事に「お」をつける必要があるのか。
ということで、いつから「お仕事」という言い方をするようになったのか、AmazonのHPを使ってちょこっと追ってみました(以下、著者名を略してます、ごめんなさい)。
まず、小説の紹介文をだーっと調べると、『書店ガール』(2012年文庫として刊行)に「お仕事エンタテインメント」という表記がありました。ちなみに、和菓子店の店員が主人公の『和菓子のアン』(2010年刊)は「青春小説」、県庁職員が主人公の『県庁の星』(2005年刊)は「公務員小説」、版元のHPで「人気お仕事小説」と紹介されている『君たちに明日はない』(2005年刊)は「人間ドラマ」と記されています。
この『書店ガール』は『ブックストア・ウォーズ』(2007年刊)の改題なのですが、そのレビュー(2007年書き込み)に「お仕事モノ」という言葉を発見! この時点で「お仕事」という言い方はすでにあったようです。
そこで今度は、テレビドラマのDVDの紹介文をざーっと調べると、『ハケンの品格』(2007年放送)に「お仕事エンタテイメントドラマ」という表記を見つけます。それからさらに遡(さかのぼ)っても「お仕事」の文字は見いだせないのですが、な、なんと、そのものずばりの『ナースのお仕事』(1996年放送)を見つけ、脱力して調査は終わったのでした。
つまり、「お仕事」という言葉は、最初、「女性」と対になる言葉だったのですね。この「お」に込められた何となく良くなさそうな感情について、私はこれからもずっと考えることになりそうです。
そのきっかけとなったのは、今回、『あとを継ぐひと』という仕事小説集を書いたからなのでした。
『あとを継ぐひと』
田中兆子 / 著
【あらすじ】
トランスジェンダー(MtF)の範之(27)は、実家の老舗旅館に戻って仲居の修業中。しかし女性の格好をする範之を、母である女将が認めてくれずーー。(「若女将になりたい!」)6つの職業現場を舞台に、新時代の働き方、生き方を見つめる仕事小説集。
【PROFILE】
たなか・ちょうこ 1964年、富山県生まれ。2011年「べしみ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、『甘いお菓子は食べません』でデビュー。2019年『徴産制』で第18回Sense of Gender賞大賞受賞。
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