コロナによって売上が66%増えた驚きのスタートアップ企業。|起業家・斉藤徹ロングインタビュー(1)
ピックアップ

 

GAFAの覇権は、コロナ後も続くのでしょうか。日本IBMを退職して起業し、何度も倒産寸前まで追い込まれ、それを乗り越えてきた起業家の斉藤徹さんは本日発売の新刊『業界破壊企業』で、今、かつてのGAFAのように業界を破壊しているイノベーション企業をピックアップして解説しました。
本書を読めば、イノベーションはどうやって起こすのか、イノベーションを起こすのはどんな人なのか、ポストコロナの時代に生き延びるのはどんなイノベーション企業なのかがわかります。
それを知ると、イノベーションがぐんと身近になります。大規模な技術革新はムリでも仕事の現場で小さな革新を生むことは可能です。
コロナ後を見据え、自分にとってのイノベーションとは何かを、斉藤さんと一緒に考えてみませんか。

取材・文=今泉愛子

 

コロナ下で大躍進した企業と衝撃を受けた企業

 

――本のタイトル『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』にある業界破壊起業とは、どんな企業でしょうか。

 

斉藤 イノベーションによって業界の勢力図を一変させてしまう新興企業やプレイヤーのことを「ディスラプター」と呼ぶんです。直訳すると「破壊者」ですが、「革新者」というイメージに近いかもしれません。アメリカのニュース専用放送局は毎年、ディスラプターを50社選出して「ディスラプター50」として発表しています。この本では、そこから20社をピックアップして解説しています。

 

――まさに、今もっとも勢いのある企業ですね。中でも私が注目したのは、Peloton(ペロトン)です。コロナ前に起業した企業なのに、今の時代にぴったりじゃないですか。

 

斉藤 そうなんです。Pelotonは、フィットネス用のバイクを販売し、自宅でワークアウトをする仕組みを提供しています。バイクには大型モニターがついていて、リアルタイムでインストラクターが声をかけてくれるんです。BGMもクラブっぽいものが流れていて、家にいながらジムのクラスに参加しているような気分になれます。

 

――盛り上がりそう。男女いろんなタイプのインストラクターがいて、自宅でジムのレッスンを受けるようにワークアウトできるんですね。これなら続きそう。

 

斉藤 ライブがない時間やレッスンを受けたくない場合は、録画した動画をストリーミングすることも可能です。

 

――まさに、イノベーションですよね。

 

斉藤 この1月から3月の四半期で売上が66%上がったんです。会員も64%増えています。

 

――すごい! コロナが追い風になりましたね。

 

斉藤 今、僕たちが使っているZoomも、1月から4月の4カ月で、ユーザー数が30倍です。

 

――30倍! 私もその1人ですけど(笑)。

 

斉藤 1000万人が3億人です。今や全世界の学校10万校がZoomを使っています。

 

――PelotonもZoomもコロナ前に起業していますよね。コロナが来ることを予想していたわけではなかった。

 

斉藤 そもそもPelotonは、一般のスポーツジムのように実店舗を持つ普通のフィットネスジムでした。ただしワークアウトが独特で、クラブのような薄暗い照明で、音楽をガンガン流して、バイクを漕ぐんです。最前列でインストラクターが声をかけながら盛り上げて、人気のクラスは予約が取れない状況が続くようになって、「自宅でできるオンラインのワークアウト」へと進化しました。

 

――そういう流れがあったんですね。

 

斉藤 Amazonが生まれたように、インターネット時代になってから、基本的にはどんどん物理空間が仮想空間に移っています。その流れは確実にあって、Pelotonも最初は普通のフィットネス。それでパンクしたから仮想空間に移りました。だから業界破壊企業のような新しい企業は、仮想空間を中心にしたものが多いんです。

 

――一番革新を起こしやすい。

 

斉藤 既存のエリアは、既存の大企業が既得権益を持っていますから、新しい企業は仮想空間をベースにすることが多いですね。

 

――ここ数ヶ月のPelotonやZoomの躍進は、たまたまラッキーだったという理解でいいんでしょうか。

 

斉藤 そうですね。たまたまです。コロナはまったく予想していなかったでしょうから。一方で、AirbnbやUberは大変なことになっています。

 

――Airbnbは、空いた部屋や家を提供する人と旅行者をマッチングすることでホテル業界に、Uberは、スマホを使った配車サービスでタクシー業界に、波紋を投げかけました。まさにイノベーションでした。

 

斉藤 それが今は、Airbnbは25%の人員をレイオフ、Uberが14%のレイオフです。リアルでつながることを前提としたビジネスモデルは大変な衝撃を受けています。これらの企業は、むしろもう仮想は十分だよね、人はやっぱりリアルなつながりが大切だよねという揺り戻しがあった時に、そっちに力を入れてイノベーションを起こしました。

 

――目論見は悪くなかったはずですが……。

 

斉藤 これはもう仕方がないです。今回のように国家が人の物理的なつながりを強制的に断絶するということは、これまでになかったことです。だけどやはり、人はつながりを完全には絶てない。だから仮想空間を使ったものがすごい勢いで伸びています。

 

――運次第でもあると。起業の理不尽さにビビります(笑)。

 

転んでもただでは起きない起業家マインド

 

――斉藤さん自身も1991年、29歳の時に起業されましたが、自らを「4回死んだ連続起業家」だと。何度も倒れそうになって、ひと山超えてもまた起業なさったわけですよね。なぜそれができたのでしょう。私はフリーランスですが、これまで山も谷もほとんどなくて。

 

斉藤 あ、それ、前に書いた本『再起動 ~ リブート』(ダイヤモンド社)の編集者が、僕の人生を総括してつけたキャッチコピーです(笑)。僕も決して経営危機を作ろうと思って作ったわけじゃないんです。それに山というより谷が多かった(笑)。谷は中毒にならない。ただ辛い。ただひたすら辛い。

 

――でもまた次、チャレンジする方向にいくと。

 

斉藤 人間には、リスクをきちんと把握して、不安な気持ちを持つという大切な遺伝子があると聞いたことがあるんですけど、それが欠けているのかもしれない(笑)。

 

――資質的に。

 

斉藤 そう。たとえば今のコロナを例にとると、起業家マインドを持った人たちからすると、日本は欧米と比べて死者数が極端に少ないこと、4月末には明らかにダウントレンドだったのに数値根拠が明示されなかったことなどから、自粛継続への反対を発信した起業家が多かったですね。経営危機のときに味わう経営者や従業員の塗炭の苦しみを実感しているからかも知れません。基本的にチャレンジングで、リスクへもひるむことはなく向かっていく。いいとか悪いとかではなく、現実をそういうふうに捉える人たちなんですよ、起業家って。

 

――なるほど。

 

斉藤 僕の身近にはそういう人が多いです。

 

――たぶんそれは類が友を……。

 

斉藤 僕は日本IBMにいたのですが、当時から、目の前にプロジェクトがあって、「どれやりたい?」と聞かれると、一番チャレンジングなものを選んでいました。普通のプロジェクトはつまんなくて、気持ちが燃えないんです。

 

斉藤さん制作、映画みたいな出版予告ムービー。

 

――斉藤さんなりのワクワク感に導かれるということでしょうか。

 

斉藤 そうですね。成功確率は低いけれど、それを達成すると周りの人が笑顔になる、もしくは会社にとってポジティプな成果になるようなプロジェクトでないと、つまらないんです。

 

――そのモチベーションは評価ですか。他者からの高い評価が得られるだろうとか、いいカッコができるだろうと?

 

斉藤 外部からの評価ではないんじゃないかな。モチベーションは自分自身の内側にあります。どうすれば課題を達成できるかと考えることが好きなんです。仮りに外部からの評価をモチベーションにしていたら、これやって、失敗したらどうしようと考えてしまうと思います。

 

――なかなか前に進めなくなりますね。

 

斉藤 だから完全に内発的動機なんです。そういうチャレンジングな課題を前にすると、ドーパミンがドバドバ出るんでしょうね。

 

――しかも失敗してもくじけない。同じ失敗に対してもマイナス100と捉えるか、マイナス10 と捉えるかは人によって違うと思うんです。マイナス100と捉えると心が折れますけど、斉藤さんはマイナス10 くらいで捉えられるということでしょうか。

 

斉藤 不安に対する感受性と、失敗に対する評価は、僕は別だと思います。

 

――どういうことでしょう。

 

斉藤 不安に対する感じやすさが、起業家に向いているかどうかに影響するんです。基本的には不安に対する感受性が弱い人が起業家になります。鈍感力ってことかも知れないですね。でも、それと失敗という経験をどう捉えるかは、別の話です。
僕は大学で起業論を教えていますが、生徒には起業を勧めません。起業したいという子には僕の本『再起動 ~リブート』を見せて、こういうことがあるけど大丈夫?って。きちんと就職して、健やかな幸せを求めるとい道もありますから、まずはそちらを考えたらどうかと言うんです。
でも、たまに全然聞かない子がいるんです。さらにガッツが湧きますと。そういう子は僕と同じ人種なので、もう全力でバックアップします。

 

――失敗という経験を、斉藤さんはどう捉えていますか?

 

斉藤 失敗をした時に、それを自責にするか、他責にするかで、人は大きく分かれます。自責にする人は、どんどん学習するんです。たとえば倒産寸前になった時に、自分の問題だと捉えて学習する人と、そうじゃなくて、環境やスタッフ、お客さんなど外の問題だと捉える人がいて、後者は人がだんだん信用できなくなります。同じように失敗しても、人はバサっとそこで分かれます。

 

――自分に問題があると捉えれば、それを改めれば次はうまくいくはずだと、闘志が沸いてきそうです。

 

斉藤 そう。だからまたチャレンジするんです。

 

――やる気になりますよね。よし、もう1度やってみようと。

 

斉藤 少なくとも僕はそうです。散々痛い目にあったのに、2回目の起業もまったく怖くなかった。
そもそも僕がつまずいたのは大借金があったからです。僕の判断ミスで、会社を経営するために過剰に借金してしまいました。31、32歳の頃のつまずきに10何年、ずっと足を引っ張られたので、それがなければ別に。だから怖いというのはないんです。

 

――起業家の心には不安が存在しないのでしょうか。

 

斉藤 存在しますよ! でも回復が早いんでしょう(笑)。レジリエンスってやつですね。失敗に過剰に反応すると、不安が不安を呼んで、現実を正しく捉えられず、二次災害も起きてゆきます。そういう人は起業には向かない。まあ、なろうとも思わないでしょう(笑)。だけど、それはリーマン・ショック以前の起業の話です。これからはそうではありません。

 

――どういうことですか?

 

斉藤 これからは、ハッピーイノベーションです。無理に拡大するのではなく、持続的に、自分の幸せを基点として、周りの人たちを幸せにするようなイノベーションを起こす企業が増えてくると思います。必然的に僕がたどってきた古い起業のスタイルではなく、もっと普通の人が起業する時代になるでしょう。

 

――なるほど、それなら私も起業できるかも(笑)。次は、現在のイノベーションのトレンド、ハッピーイノベーションについて教えてください。

 

『業界破壊企業』の内容を2分間にサマリーしたホワイトボード・アニメーション。制作は、「イノベーションチームdot」が担当。

 

プロフィール
⻫藤徹(さいとう とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授。専門分野はイノベーションと組織論。30年近い起業家経験をいかし、Z世代の若者たちとともに、実践的な学びの場、幸せ視点の経営学とイノベーションを広めている。『再起動(リブート)』(ダイヤモンド社)、『BEソーシャル!』(日本経済新聞出版社)、『ソーシャルシフト』(日本経済新聞出版社) など著書多数。

 

業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち
⻫藤徹 / 著

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